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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

本当に新しいの?テート・モダン新館オープン!

London Art Trail Vol.49
London Art Trail 笠原みゆき
テート・モダンの新館設計はヘルツォーク&ド・ムーロン

テート・モダンの新館設計はヘルツォーク&ド・ムーロン

テート・モダン(Tate Modern)の裏手にタケノコのように突き出たこの建物は一体何?実はこちら、10階建てのテート・モダンの新館(スウィッチハウス)。タービンホールの上に橋を渡し、お馴染みの本館(旧発電所、ボイラーハウス)とを繋ぎます。先月オープンしたこの新館を早速訪れてみました。

“TheReverseCollection"©TarekAtoui

“TheReverseCollection"©TarekAtoui

1階のエントランスホールから地下一階のライブパフォーマンスが行なわれるタンクス、BMW Tate Liveへ。覚えているかな?タンクスは、このコラムの第2回で紹介したギャラリースペースです。当時はロンドンオリンピックの開催に合わせての暫定的オープンでしたが、4年の月日を経て通常オープンになりました。

目の前に並ぶのは、木製やプラスティック製、真鍮製の長ーいパイプ、そして工芸品のような陶器など。美術作品、それとも楽器?このインスタレーションはレバノン出身のTarek Atouiの“The Reverse Collection"。何故リバースかというと人類学博物館の古代の楽器を音楽家に演奏してもらい、その録音サンプル音から想像できる楽器を楽器職人につくらせたものだから。そう、作品は演奏できるんです。時間限定で即興演奏が行なわれていて演奏の様子はこちらから。

"Primitive2009"©ApichatpongWeerasethakul

"Primitive2009"©ApichatpongWeerasethakul

円筒形のスペースの中央にシネマサイズのスクリーンが向かい合い、その周りをTVサイズの映像が囲みます。この映像インスタレーションはApichatpong Weerasethakulの“Primitive 2009”で、 Weerasethakulがタイのラオスとの国境にある町ナブアに滞在して制作した作品。ナブアは60年代から80年代初頭にかけて共産主義者がそのジャングルに身を潜ませたためレッドゾーンと呼ばれた町。そして共産主義に傾倒した地元の農民は、タイ軍に虐殺を含む身体的、心理的な危害を加えられ、迫害されたという歴史があります。Weerasethakulはここで地元の10代の若者達と、田んぼの真ん中に、タイムカプセルの宇宙船をつくるプロジェクトを展開します。

10階の展望階。目の前の本館を見下ろし360度ロンドンを一望出来る。

10階の展望階。目の前の本館を見下ろし360度ロンドンを一望出来る。

今度は上階へ。まずは10階の展望階へ上がってそこから順に下りていこうと考えたのは私だけではなかったようで、地下のエスカレーターには長―い列が。仕方なく隣の誰も並んでいない4階止りのエスカレーターに乗り、そこから階段を一気に10階へ。息を切らしながら上った先にはこんな素晴らしい風景が!

“Untitled(Ghardaia)2009"©KaderAttia

“Untitled(Ghardaia)2009"©KaderAttia

レストランやメンバーズルームなど、展示のない9階から5階までをとばして、4階の展示室、Living Citiesへ。何だか埃臭いのは気のせい?気のせいではなく目の前に現れたのは調理されたクスクスで出来た都市。フランス生まれでアルジェリア人の両親をもつKader Attiaが、アルジェリアの古代都市ガルダイアを表現した“Untitled (Ghardaia)2009”。

“BeirutCaoutchouc2004-8"MarwanRechmaoui

“BeirutCaoutchouc2004-8"MarwanRechmaoui

おっと!思わず床の地図を踏みそうになったその瞬間、目の前で車いすの女性がシャーと地図を踏みつけていきます。あ、踏んでいいのね……。地図はレバノンの首都、ベイルートの地図で作品はMarwan Rechmaouiの“Beirut Caoutchouc2004-8"。 ベイルートは五千年以上の歴史を誇る、世界で最も古い都市の一つ。レバノン生まれのRechmaouiは、地図を多くの来場者に踏んでもらう事で、震災、火災や度重なる戦争を超えて復興、繁栄し続ける、野草のように強いベイルートを表現しているといいます。

ArtistsRoomsはこの日最も賑わっていた展示室。©LouiseBourgeois

ArtistsRoomsはこの日最も賑わっていた展示室。©LouiseBourgeois

4階の半分のスペースをゆったりと使ったArtists Rooms。単なるギャラリーではなく、作家の家やスタジオを訪れるような感覚で作品を観賞してもらおうというコンセプトでつくられたのがこの展示室で、初回はこの方、Louise Bourgeois。彼女の晩年の作品に焦点をあて、お馴染みのブロンズの蜘蛛に布で出来た肢体の彫刻作品やドローイングなどが並びます。

"Rhythm0(1974)"©MarinaAbramovic

"Rhythm0(1974)"©MarinaAbramovic

3階のテーマは Performance and Participant。スカーフに羽、帽子、皿、ケーキ、ワイン……さらに木片、釘、金槌、斧、鞭、拳銃、弾丸!? と、テーブルに様々なオブジェが並んでいます。中央にはこんな注意書きが。“テーブルに72個のオブジェがありますので、 私(の体)に好きなように使って下さい。" 「私」は Marina Abramovic。作品は、 夜の8時から朝の2時まで6時間に渡って行なわれた"Rhythm 0(1974)"。壁には当時の様子がスライドショーで映し出されていて、 次第に自制心を失っていった観衆により、 服を裂かれ、装填された銃を当てられても、マネキンのように表情を変えないアブラモヴィッチの姿がそこにありました。体を張った彼女の作品は今も健在ですが、やはり衝撃の大きい作品です。

この階にはこの他も70年代英国における工場労働者の男女の賃金格差を暴いた“Women and Work”やルーマニアの片田舎で、住民を巻き込み巨大なインスタレーションを発展させたAna Lupasの“The Solemn Process(1964 -2008)”など見所が豊富です。

まだまだ紹介したい作品がありますが、既に文字数大幅オーバー……。2階のBetween Object and Architectureに行き着けなくてごめんなさい。

テートコンテンポラリーと呼んでもいいような、60年代から現代に至るまでのコンテンポラリーコレクションに的を絞ったテート・モダン新館。9月にはいよいよ、5階のアーティストレジデンスの行われるテートエクスチェンジもオープンする予定で、この先もまた目が離せません。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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