職種その他2015.10.14

独立してもやっぱり訪れたい?Glasgow

London Art Trail Vol.40
London Art Trail 笠原みゆき
GoMA(The Gallery of Modern Art)

GoMA(The Gallery of Modern Art)

今回はロンドンから北へ列車で5時間半、スコットランド最大の都市、グラスゴーから。 まずは町の中心にあるGoMA(The Gallery of Modern Art)へ。立派な建物はその昔は、王立取引所。表にはナポレオンを破ったことで知られる初代ウェリントン公爵が馬にまたがった銅像があり当時の面影を残す。でも何故か公爵はトラフィックコーン(道路工事中を示す円錐形の路上標識)を被っていて?80年代に誰かがコーンを被せたのが始まりといわれるこのコミュニティーアート、市や警察が取り払ってもまた誰かが被せるといういたちごっこはその後も続き、今ではすっかり町の観光名所となっているそう。

“Churchill's Dogs,1995" ©Kenny Hunter

“Churchill's Dogs,1995” ©Kenny Hunter


広いギャラリーで左右に立つ強面の黒い犬に出迎えられます。二頭の番犬は、Kenny Hunterの“Churchill's Dogs,1995”。ウィンストン・チャーチルがこんな番犬を飼っていた訳ではなく抑鬱病を抱えていたチャーチルが自分の病気を“黒い犬”と呼んでいたことから。

“Tabernas

“Tabernas Desert Run, 2004” ©Simon Starling


自転車に搭載されているのは電子部品にモーター、水素ボンベ。 反対側には花の咲いたサボテンの水彩画? 今では実用化されている水素燃料自転車を手作りし、周囲280kmのスペインのタベルナス砂漠を走行したSimon Starlingの“Tabernas Desert Run, 2004”。走行により生まれた水を貯蔵し飲料水として使い、更にその水で水彩画を描いたスターリン。

“Seven and Seven Is or Sunshine Bathed the Golden Glow, 2008" ©Jim Lambie

“Seven and Seven Is or Sunshine Bathed the Golden Glow, 2008”
©Jim Lambie


二本足の色とりどりの椅子達がミラーボールのようなハンドバックを持って踊り、群がるインスタレーションはJim Lambieの“Seven and Seven Is or Sunshine Bathed the Golden Glow, 2008” ミュージシャン、DJもこなすランビーのポップな作品。

“Gobstopper,1999(14分)" ©Roderick Buckanan

“Gobstopper,1999(14分)” ©Roderick Buckanan


車内で必死に息をこらえる子供の映像。グラスゴーを流れるクライド川の下を抜けるトンネルで、子供達が一人一人トンネルを入って抜けるまで息を止めるというゲームをしています。見ている方も思わずこのゲームに参加してしまうのは作家の策略。Roderick Buckananの “Gobstopper,1999(14分)” さて、紹介してきた作家達の共通点は? Devils in the Makingというタイトルで展示されていたのは全てグラスゴー美術学校(GSA)出身作家の作品。GSAといえば、著名な現代美術作家、数多くのターナー賞候補者、受賞者を輩出していることでも有名。またキャンパスそのものが建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュの遺産。昨年の大火事でひどい損傷を受けたことは知っていたものの、今回再度訪れてみて、足場で覆われたマッキントッシュ棟には勿論入れず、あの木造の図書室の修復は無理だろうなと呆然と外から眺めるのみ。失われたものの大きさに改めてショックを隠しきれませんでした。(寄付はこちらから)

CCA(Centre for Contemporary Arts)

CCA(Centre for Contemporary Arts)

所変わって、CCA(Centre for Contemporary Arts)。スコットランドで丁度1年前、独立の是非を問う独立住民投票が行なわれた事、覚えてますか? CCAではこれに応え、“The Shock of Victory"と題して住民投票のその後を考える展示、シンポジウム、デジタル出版物を含むプログラムが開催されていました。

“Landart,

鉛筆で"部屋に幾人かは必ず自分達に同意しない人に妨害をしたがる人がいる“と書かれている。  “Landart, 2012” ©Antonis Pittas

10m程の長いベンチのような大理石。石の上から床へ、鉛筆で印刷の文字のようにくっきり書かれていたのは独立住民投票後の呟きの引用文。60年代に流行した巨大なランドアートからヒントを得て、あえて出身のギリシャ産の大理石で表現したAntonis Pittasの “Landart, 2012”。よく石を見れば他の部分にも文が書かれた後が残っていて、政治的な出来事に応じて新しい引用を書いては消してという作業が繰り返されている事が分かります。展示期間中も三回程引用文が変わる予定だとか。
“In the Shadow of the Hand, The Referendum Made Me Horny, 2015" ©Virginia Hutchison and Sarah Forrest

“In the Shadow of the Hand, The Referendum Made Me Horny, 2015” ©Virginia Hutchison and Sarah Forrest

壁にかかった新聞紙製の幾つかのレコード。一つ外して早速かけてみます。“fact, successful, gas, nuclear, research, control, edinburgh, making, shows, voters, families…" レコードは粗く雑音の中から聞こえてくる言葉の波。録音されていたのは住民投票の3ヶ月前に99回以上ツイートされた言葉集で、グラスゴーを拠点にするデュオVirginia HutchisonとSarah Forrestの“In the Shadow of the Hand, The Referendum Made Me Horny, 2015”。リサーチは当初ガーディアン紙によって発表されたもので、1年後に二人が同紙に確認すると、その結果は1年前と殆ど変わらなかったとか。

“In the Shadow of the Hand, Head Lines, 2015“ ©Virginia Hutchison and Sarah Forrest

“In the Shadow of the Hand, Head Lines, 2015”
©Virginia Hutchison and Sarah Forrest

淡々とポップコーンをほおばりながら哲学的な映画を観るかのように遺跡を眺めるハチソンとフォレスト。遺跡は二人が今年レジデンシィを行なった英国で唯一先史時代のミイラが発見されているサウス・ウイスト島のCladh Hallan。映像の前に転がっているのは黒鉛に鋳造した二人の頭蓋骨。描けば消費される鉛筆の材料である黒鉛製の頭蓋骨は、感情もアイデンティティーもなく消えていくもの。国境の観念などない紀元前2000年の歴史を見ても独立住民投票を考える手助けにはならない?“In the Shadow of the Hand, Head Lines, 2015”。

展示されていた独立住民投票のキャンペーンで使われた資料のアーカイブ。チラシなどの印刷物から、国会議員のメモまでNational Library of Scotland (NLS)によって集められているもので、この先も収集を重ねていくのだそう。

展示されていた独立住民投票のキャンペーンで使われた資料のアーカイブ。チラシなどの印刷物から、国会議員のメモまでNational Library of Scotland (NLS)によって集められているもので、この先も収集を重ねていくのだそう。

幅広いアートと強いアイデンティティーをもったグラスゴー。ロンドンからちょっと遠いですが訪れてみる価値のある町です。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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