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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

Acme Studiosへのハガキ

London Art Trail Vol.16
London Art Trail 笠原みゆき

契約しているスタジオ管理会社Acme Studiosから届いた謎の茶封筒。 中には一通の手紙と何も書かれていない大きめの白いハガキが。手紙には下記のようにありました。 “Acme Studiosの40周年を記念して全てのテナントのアーチィストを招いての展示を行ないます。 この白いハガキがあなたのキャンバスになります。参加される方は切手の張られた返信用の封筒にそのまま作品を入れて送り返してください。” 2ヶ月後の現在、そのハガキを展示した“Postcard From My Studio展”がイーストエンドのAcme Project Spaceで展示中ということで覗いてきました。

Acme Project Space

Acme Project Space, 二部屋に分かれているギャラリーの奥の部屋

白いハガキはAcme Studiosの600名以上にのぼるテナント作家達に送られたそうで、会場には290枚のハガキが展示されていました。ハガキを追加要求して複数制作した作家も幾名かいるので実際には250程の作家が参加したようです。

展示作品は、自身のテーマで制作したものとPostcard From My Studioという展示の趣旨に応えたものとの2つのタイプに分かれたように思われました。気になった後のタイプの作品を幾つか紹介します。

Guy Burch

©Guy Burch

まずこちらは眠りたいのに眠れない、眠っていても制作のことで頭の中は一杯!という感じがひしひしと伝わってくるGuy Burchの作品。

Karen Colley

©Karen Colley

じっと眺めていると壁そのものが作品に見えてくる?Karen Colleyのスタジオの壁の凹凸をなぞって描いたドローング。

©Arturo Di Stifaro

©Arturo Di Stifaro

こちらのカラフルな作品は、スタジオの入り口のドアを描いたもの。Arturo Di Stifaroは、普段の作風とは違ったマーク・ロスコ風のスタイルで描いた様子。

©Alexandra Harley

©Alexandra Harley

郵便局からハガキとして送るのは多分無理だろうなあと思われるこの立体的なハガキ?はAlexandra Harleyの作品。複数のハガキを使い彩色して仕上げた彫刻家らしい作品。

©Sarah Perritt

©Sarah Perritt

スタジオにたたずむ作家自身のミステリアスなポートレートはSarah Perrittの作品。

Acme Studiosは東ロンドンを拠点としてロンドンを中心に16棟の建物を有し、640のスタジオを管理するのみならず、アーチィスト・イン・レジデンスや様々な賞を設けて国内外のアーチィストをサポートする、英国最大の非営利アーティスト・スタジオ団体の一つで、現在も拡大中。とはいえ40年前の創設当初は美術大学を卒業したばかりのJonathan HarveyとDavid Patonが、自分たちのスタジオ探しから始めた小さなビジネスでした。 1960年代から1970年代初頭の当時は、爆破された建物がそのまま取り残され、空き家や空き倉庫が散在。戦後の面影がまだ尚色濃く残る東ロンドンに、多くのアーチィストたちがスタジオを借りるチャンスを見いだし、移り住んでいった頃だったといいます。幾人もの有志のアーチィストたちが集まって立ち上げたスタジオ・ビジネスも、金銭が絡むため次々と脱落者が出ていく中で、結局残ったのは二人だけになってしまったそうです。この辺りのアーカイブについては現在Whitechapel Galleryにて、“Supprting Artists: Acme’s First Decade 1972 – 1982”と題して展示中です。

©Clare Qualmann

©Clare Qualmann

最後にこちら、”Expect A Miracle ”(奇跡を待ち望む)と赤い糸で刺繍されたハガキはClare Qualmannの作品。作品は制作の場でそして金銭、時間といった現実の生活とのギャップの中で試行錯誤をする作家たちに共通する思いを表現している、そんな気がしました。

Acme Studiosの軌跡は、奇跡は待ち望むだけでは起きない、長い時間と多大な努力を要求するということを私たちに伝えてくれます。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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