職種その他2013.06.12

マルセイユがフランスの文化首都に!? Marseille-Provence 2013

London Art Trail Vol.12
London Art Trail 笠原みゆき

今回は2013年の欧州文化首都マルセイユから。ギリシャの女優で文化大臣であったMelina Mercouriが提唱し1985年にアテネから始まった欧州文化首都は、選ばれたEU加盟国の都市が一年間集中的に様々な文化行事を繰り広げる事業。

“Unframed” ©JR

“Unframed” ©JR

 

まず、マルセイユSaint-Charles駅を出てすぐのLa Friche Belle de Maiへ。Fricheは元々旧タバコ工場を使い1992年にアーティスト達が運営を始めたアート•コレクティブでしたが、市が欧州文化首都に選ばれたことから行政の主導となり、訪れたときは巨大な複合美術文化施設へとの改築が行われている真最中。できたてほやほやの広大な会場の屋上に上がり、マルセイユの街を見下ろしてみると!インスタレーションはフランス人作家JRの“Unframed”。町の14カ所の建物の壁に出没する写真群はマルセイユの人々の暮らしを題材にしたもの。写真は1966-1967年のSaint-Charles小学校の生徒達。JRの作品は現在ワタリウム美術館でも展示中なので是非訪れてみては。(6月末迄)

“Ex Voto”©Le Laboratoire

“Ex Voto”©Le Laboratoire

 

Saint-Charles駅に戻り、市内に向かう近道であるというトンネルに入ると薄暗いトンネルの壁には幾つもの目、口、耳の映像が!作品はMaryvonne ArnaudとPhilippe Mouillonのコラボレーション(Le Laboratoire)の“Ex Voto”。しかし排気ガスがすごいので長く留まるのは至難。

“Ombrière” ©Norman Foster

“Ombrière” ©Norman Foster

 

そのまま海に向かって歩いて行くと街で最も古い船着き場のあるVieux港に出ます。そこでは天と地があべこべに!6m平方の鏡のように磨きあげられた鋼の板が細い柱に支えられ宙に浮かび、逆さまに港の風景を映し出していました。英国の建築家Norman FosterのOmbrièreというインスタレーションで、すぐ隣では生きた魚が飛び跳ねる魚市場の上空を無数のカモメが旋回中。ふとMarcel Pagnolの映画でこの港の人間模様を描いた、マルセイユ三部作(trilogie marseillaise)が思い出されます。

“Mucem”©Rudy Ricciotti

“Mucem”©Rudy Ricciotti

 

Vieux港から海岸沿いを北東に進むと陸の先端にまるで黒い海藻のベールに覆われたかのように見える建物、ヨーロッパ地中海文明博物館(MuCem)が見えてきます。このベールは単なる飾りではなくアラブの伝統的建築に用いられるmashrabiya格子から発想を得ていて、熱を遮断し建物を冷たく快適に保つための工夫の一つ。アルジェリア生まれのフランス人建築家Rudy Ricciottiの作品。10年以上の歳月をかけて計画され、パリ以外で初の国立美術館となるMucemは6月7日オープンのため訪れたときはまだ工事中。

“Frac”©隈研吾

“Frac”©隈研吾

 

港から一歩入ると南仏の青空を幾枚もの紙がはためいているような建物が見えてきます。建物はプロバンス-アルプス-コートダジュール現代美術センターFrac。4層に分かれ1、2、4階で展示が行われていて3階には充実した美術図書館も。建築は日本の建築家隈研吾

“Clepsydre”©Générik Vapeur

“Clepsydre”©Générik Vapeur

 

マルセイユ名物といえば石鹸。港に戻るとHanger J1という旧フェリーターミナルを改築した複合文化施設の前に巨大な石鹸が!重さ80トン、3m立方もあるこの石鹸の上にはこれもまた巨大な蛇口からぼとぼとと水が落ちていています。作品は地元を拠点にするGénérik Vapeurの古代エジプトの水時計から名付けたという “Clepsydre”。蛇口からこぼれる水は少しずつ石鹸を溶かし、時の流れを象徴しているそう。

“Double disque évidé par les toits” ©Felice Varini

“Double disque évidé par les toits” ©Felice Varini

 

さて、日本でも知られているマルセイユ石鹸老舗メーカー、Savonnerie Marius FabreはマルセイユではなくSalon-de-provenceという町にあります。Salonは予言者として名高い、天文学者で医師でもあったノストラダムスが晩年を過ごした地ですが、実はこの町もまたマルセイユ欧州文化首都事業にプロバンスの約100の市町村と共に参加しているのです。町の中心にそびえ立つアンペリ城から町を見下ろすとそこには真っ赤な太陽が2つ!パリ在住、スイス人画家Felice Variniの120戸の家主の許可を得て実現したという作品。

欧州文化首都は当初、欧州を文化面で代表する都市が多かったのですが、次第にその経済効果が注目されるようになると、再開発の契機にとイメージの見劣りする知名度の低い都市が選ばれるようになりました。事実2008年の英国リバプールで開催された際は美術関係の施設やイベント動員数は前年の三割増、8億ポンドの地元へ経済効果があったといいます。

紀元前600年からの都市の歴史は常に移民や難民を受け入れた歴史であり、治安の悪い街というイメージがつきまとう一方、マルセイユが様々な人種と文化が混在するコスモポリタンな都市であることは現在も変わっていません。

夏に向けて様々なイベントが本格始動に入るようですが、現時点(5月末)で既に5億5千万ユーロがこの事業に投じられたと報道されており、文化の祭典が箱もの事業に偏らないことを祈ります。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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