職種その他2013.05.08

ウェルカム! Outsider Art from Japan

London Art Trail Vol.11
London Art Trail 笠原みゆき
Medicine Manの展示室

'Medicine Man' の展示室

ダーウィン愛用の杖、ナポレオンの歯ブラシ、フランス革命で使われたギロチンの刃。診断用の人形、ひとの歯を数珠状に繋いで飾られた中国の医師の看板!?これらは皆 Wellcome Collection の収蔵品。ウェルカム•コレクションはアメリカ生まれのイギリス人製薬長者Henry Wellcome(1853-1936)の医学研究支援団体であるウェルカム•トラストの事業の一部で、一般に無料解放されている美術館。

ロンドン中心部ユーストン駅から目と鼻の先、五階建てのウェルカムビルにあるウェルカム•コレクションは、二階にウェルカムの500点以上もの絵画を含む奇妙な収蔵品を陳列する“Medicine Man”、現在の科学と医薬品のあり方について科学者、患者、アーティストの目線から提示するミュージーアム“Medicine Now”、一階に特別企画展示場、カフェと書店、地下には催事場、また三階と四階には200万冊にわたる医薬品に関する蔵書を誇る図書館を持っています。

この特別企画展示場で、“Souzou, Outsider Art from Japan” と題して日本各地の社会福祉施設で生活、働きながら創作活動を続けている障害をもつ46人の独学のアーティストを紹介する展示が行われていました。それぞれの診断症状は認知障害、行動障害、発達障害、精神疾患と多様で皆、福祉施設に住むかデイケアを受けている人たちで、展示作品は全て施設、またはデイケアセンターで制作されたもの。

“Souzou” は日本語では等しい読みの “想像” と “創造” が、英語にすると、新しいアイデアを生みだし(想像 - imagination)、それを形にする(創造 - creation)という、つながる二つの意味を持つことからつけたタイトル。


©古久保憲満

'3 Parks with a panoramic view. A 360 degree world of panoramic view – Ferris Wheel, clusters of buildings with magnetically-levitated trains, past present future, a suburban town with railroad bridges, a city under development with indigenous peoples and natural resources.' 2011- ongoing
©古久保憲満

まずこちらは、若干17歳の古久保憲満(1995年生 滋賀県在住)の作品。 今にも街の喧噪が聞こえてきそうなこのドローイングには、実在している世界の建築物に加えて人工衛星、車、電車、飛行機、船などが縦横無尽に描き込まれていています。よく見ると東京のスカイツリーや、大観覧車のロンドン•アイも。2011年から描き続けているというこの長さ10mの蒔絵は、実は現時点で8.3m描き上げたところでまだ完成していないそう。 人も動物も植物も存在しない人工物のみの無機的な世界がかえってそこに人間の存在を際立たせる作品。


© 古賀 翔一

左から'Kappatengu' 2007, 'Kanibo' 2006, 'Tateyamakaeru 2' 2006
© 古賀 翔一

次は古賀 翔一(1989年生 福岡県在住)のぐるぐる巻いたティシュペーパーを芯材に新聞紙と色紙と粘着テープで造形されたフィギュア作品。小学生の頃から約15年間、同スタイルで制作を続けているそうですが、素材がシンプルなのでかえって斬新な印象に。ユーモラスで懐かしい妖怪や神々の集い。


©澤田真一

'Untitled' 2006 - 2010
©澤田真一

とげがあるのに愛らしい不思議な生き物たち。澤田真一(1977年生 滋賀県在住)の作品には縄文土器にあるような圧倒的な世界観があり一気に引き込まれます。澤田は自閉症を患っているためほとんど言葉を発することはなく、知的障害をもつ人のための施設でパンを焼く仕事をする傍ら、週二回陶芸工房で黙々と制作しているそうです。また澤田は今年の第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ参加作家のひとり。


作品をみていくと滋賀県出身の作家が多いのに気づきます。それもそのはず、滋賀県社会福祉事業団が運営する2004年に設立されたボーダレス・アートギャラリーNO-MAが企画に深く関わっています。 滋賀県では、1947年日本の障害者福祉の父と呼ばれる糸賀一雄を代表とし創設された近江学園で粘土を利用した造形活動から始まり、県全体の福祉施設において障害をもつ人の造形活動が発展して行く過程で、常設ギャラリーの検討が自然な形でなされていきました。NO-MAの建物は伝統的建造物群保存地区で空き家になっていた築80年の町家を改築したもの。日本で是非訪れてみたい美術館の一つです。

“アウトサイダー・アート”という造語は、精神療養施設などといった主流文化から離れたところで生み出されたアートを説明するための一つの表現でした。しかし現在では専門的な美術教育を受けていない、市場から外れたアーティストの作品を指すのがより一般的になりつつあるようです。

当たり前のことかもしれませんが、障害をもつ人は専門的な美術教育を受けた人のなかにも数多くいます。私のイギリスの友人のなかにも幾人かいて、精神疾患をわずらう一人は通常の生活をおくってはいるものの、薬を欠かすことはできず、時には病院に戻らざるをえない状況に陥りながらも精力的に作品を制作、発表をしています。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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