“活動屋”とは何だ。寝ても覚めても映画のことばかり考えて生きていた

Vol.029
井筒和幸の Get It Up !
Kazuyuki Izutsu
井筒 和幸

1984年は、アイドル映画からCM演出にビデオワークまで、映像の仕事なら何でもし始めた“活動屋”としては、次から次と忙しかった。
しかし、オレはいったい何屋なんだろう? 
ほんとに“活動屋”でございますなんて言えるのか? 駅まで歩く間でも、電車の中でも、よく自問自答したものだった。モーションピクチャー!動く画像、活動写真! 
映画の草創期を生きたマキノ雅弘とその一家を描いた『映画渡世 天の巻・地の巻』(77年刊)を読み返していると、一、スジ(脚本)二、ヌケ(画面・ルック)三、ドウサ(演技力)でシャシン(映画)の良し悪しが決まるとの一節があった。

じゃ、演出とは何なんだ、現場の裁判官か? 
この先のオレの映画渡世こそどうなるんだろうと、寝ても覚めても思っていた。
飯を食っている時でもそんな顔をしていたのかな、出かけにいつも寄る国鉄・新橋駅構内のスタンドカレー店でも、年配の店員から「今度は、ナニを撮るんです?」と声をかけられたりする度に、「オモロい原作があるんよ。ビルマのインパール戦線から帰った復員兵らが海賊たちになって瀬戸内海を暴れまわる話とかやりたいのよ」と思ったことをそのまま、誰彼なしに言っていた。

何を撮ったら心から発散できるのか、何を観たならお客も納得するのか。
オレは活動屋だと言えるのか、このまま自由に生きていけるのか、観たばかりのブライアン・デ・パルマ監督の新作『スカーフェース』が胸に迫った話も誰彼なしにした。
冒険アクションもギャング映画も重犯罪モノも戦記モノも何でも手がけたいな、といつも考えていた。

そんな秋の終わりに、日活撮影所の樋口所長から電話がかかってきたのだ。
「来年のゴールデン用に、ロマンポルノじゃなくて久しぶりに一般モノを企画してるのだけど、じかに会えたら」と言われた。
樋口さんは10年前にボクの初めてのピンク映画モドキを、当時のロマンポルノ全盛の日活に売りこむのに骨を折ってくれた本社のプロデューサーで、元は監督から“活動屋”をスタートした人で、ほんとに久しぶりの声で、それだけでも嬉しかった。
ボクのゲテ物ピンク映画は買ってはもらえなかったけれど。

呼び出された六本木の小さな寿司屋で、いきなり、「いつの間にか、調布の撮影所を任されてちゃって。でね、…『金魂巻』という、カネ持ちのすることと貧乏人のすることを何でもかんでも2種類に分類してヒトやモノゴトを捉えるなんてひどい話なんだけど、まあ、人生カタログみたいな本で、若者にうけてるベストセラーがあるんだけど…」と切り出したのだった。
「うちもポルノもダメだし、ちゃんと一般映画やろうかと役員会で……、それで、東映出身の、『トラック野郎』のあのベテラン鈴木則文さんに声かけたら、話が難しいって断られちゃって。
オレは彼の名作『温泉スッポン芸者』みたいな感じで、人情とちょっとエロの混じったごった煮のコメディでやってくれたら愉しいシャシン(映画)になると思ってんだけどね、で、色々考えてたら、アンタの名が浮かんでね。
来年のゴールデンウィークのプログラムにしようかと思ってね。元の物語があるわけじゃないし、一からだから好きに料理して作ってくれていいし、実は言ってしまうと、昔からのコンビのホン屋(脚本家)の西岡さん(『ガキ帝国』)にもちょいと振ってんだけど、」ともう説得は止まらなかった。

「好きに料理しろ」か。なんていい言い回しだ。所長が自らプロデューサーとなって決めた企画を若手に任そうとしてるのだ。
それを、『緋牡丹博徒』でお竜を生んで『伊賀野カバ丸』もこなしてきた大先輩、鈴木さんのように簡単に断って、寿司だけ食べて帰ったら、仁義もスジもないだろ。
しかも、ボクの弟分のホン屋にも話はつけてるんだし、もう、四の五の言わせないでよという“活動屋”らしい阿吽の世界だった。

ボクも「分かりました、やりましょ」と答えるなり、ついでに酒も寿司も立て続けに注文して、パクついた。もう逃げてはならない。「毒食わば皿まで」だった。

機嫌のいい樋口所長に生意気なことを言ったのも覚えている。「どんな風なシャシンにしたらいいですか? オレは『寅さん』や『トラック野郎』は無理ですよ。
ルイス・ブニュエル監督の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』や『自由の幻想』や『欲望のあいまいな対象』みたいな、けったいなシュールな映画にしてもいいですか。
世の中、カネ持ちと貧乏人に分けて考えるのは一番分かりやすいし、映画とは階級を描くことだし、その摩擦や馴れ合いや闘いを、大勢のキャラクターを出して、幕の内弁当みたいな話にしましょうよ」などと。相手はシャシンの分かる日活所長だ。言うだけ言って、食うだけ食ってやれと思った。

角川映画の次の企画オファーがいつ入るのか、大映との海賊モノ企画がどう進むのか、気になることはあったが、まあ、ここは日活と心中してやろうと肚を固めたのだった。
酒の勢いで思いついたブニュエル作品のビデオを探しまくった。どんな映画だって優れた映画の真似から始まるんだと居直っていた。ボクの“活動屋”渡世がいよいよ始まろうとしていた。

(続く)

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