職種その他2019.08.14

犬は見ていた!The Tunnel @Safe House1

vol.86
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Safe House1

南ロンドン、再開発の進むペッカム。Peckham Rye駅を出て細い路地に入り、元倉庫を利用したオシャレなバーが立ち並ぶエリアの群衆をかき分け住宅地に出ると、現れたのはなんの変哲もない普通の家。今回はここ、Safe House1より、グループ展「Observation of a Dog」をお伝えします。

上を見上げると…。

そこはしばらくの間空き家だったのか、中はかなり荒れ果てた様子。壁紙は剥がされ、ドアや天井は抜かれ、木製の骨組みから綺麗な光が差し込んでいます。

©Grassy Noel & APE

かつて居間であった部屋には人が集まっており、そして中央にはトランプ大統領、ジョンソン首相、ファラージ ・ブレグジット党代表の三顔面を模した手作りのお面をかぶって厳かに怒りを爆発させる、Grassy Noel(Noel Macken) の姿が。英国において戦後最も極右の政権として誕生したジョンソン政権。EU離脱を強行するこの政権に多くのロンドン市民は怒りを露わにする一方、戦々恐々しているのが現実です。

©Julia Maddison

出たー幽霊!ドアがあったと思われるフレームにかけられているのは見覚えのあるNHS(国民保健サービス)病院の患者の手術ガウン。血のように赤いリボンがつけられよく見ると本物の血痕跡も。そのすぐ脇には処方された錠剤を鉛筆でトレースした鉛筆画に「これ、嫌なんだよね。」とコメントが書かれています。これらは作家のJulia Maddison 自身のオペ経験をもとに作られた作品。私自身もNHS病院に腎臓炎で入院した経験がありますが、大学病院だったのもあり研修医が毎日変わりました。

ドクター:「私が今日のあなたのドクター〇〇です。どこか痛みなどありますか?」

私:「ここがちょっと痛いんです。」

ドクター:「じゃあ、早速痛み止めを打ちましょう 」
といった感じでまさにモルモット状態 。

©Ky Lewis

黒い野良犬、それとも狼?最近の研究によればヨーロッパで人が犬を家畜したのはおよそ1万5千年前だとか。そんな付き合いの長い人と犬ですが人もまた自らを家畜化した動物です。作品は Ky Lewisのプリント作品。 黒い犬といえばタルコフスキー映画、ストーカー(1979)で黒い犬が登場しますが映画の中の犬は訪問者達を観察しているオブザーバー的な存在を果たしているように思えます。

©Mondy Prowse

大きな目で見つめる不思議な生き物達。先住民族の絵画を彷彿させる作品はMondy Prowseのインク画。ラテン語の書物の上に描かれた巨大な目に思わず吸い込まれていきます。

2階からみた風景。

©Monika Tobel

二階へ上がります。猫足の緑の上品な椅子が置かれ、動物の絵が書かれた壁紙の上に動物の解剖図の描かれたドローイングなどが飾られています。中央には先ほどの患者の手術ガウンを着て犬の面を被った女性が立っています。こちらの女性は作家のMonika Tobelで、作品はTobelのインスタレーション。よく見ると壁紙には動物の絵だけでなく動物実験の描写も。さらに右上に貼られたA4の紙には、はつかねずみ、ハムスター、鳥、兎、猿、犬などの動物名の隣に巨大な数字がずらり。Cruelty Free Internatinalによると英国において施行された動物実験の数は2018年のわずか1年間で3億5千2百万回。そのうちの半数は大学などの学術研究でまた猿の実験においてはその9割近くを輸入に頼っているのだとか。人の命は尊いけれど動物の命は?

©Monika Tobel

「Observation of a Dog」 はアーティスト、ミュージシャンなどのアートコレクティブThe Tunnelによって企画されました。社会性の高いアートを発信する The Tunnelのこの先が楽しみです。

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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