職種その他2019.06.12

少年トムの運命は? @St. Augustine’s Tower

vol.84
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

St. Augustine’s Tower

東ロンドン、オーバーグラウンドのハックニーセントラル駅に降り立つと、高台にあるホームから北に石造りの塔が目に入ります。なんか結構古そう?そうです、この塔は16世紀初頭に再築され、その歴史は13世紀まで遡るハックニーで一番古い建物。今回はこのSt. Augustine’s Towerを利用したMhairi Variによるサイトスペシフィック・アート・インスタレーション、「Hollow Projects」の紹介です。作品はDomobaalギャラリーのオフサイトプロジェクトです。

入り口を入ったところにある階段

とても狭い階段

塔の中に入ると、「Tom Hart’s Bones」というハックニーの史実を基にしたTom Hartという少年の物語の描かれた一枚の紙を渡されます。分厚く小さな木の扉を開け、幅70cmほどの狭い石の螺旋階段をかたつむりになった気分でくるくると這うように上っていきます。

Hollow Projects ©Mhairi Vari

Hollow Projects ©Mhairi Vari

「その昔、トム・ハートという少年がハック二ーのリー川のほとりに住んでいた。少年は原因不明の痛みを抱えながら1897年に亡くなった。トムは流木でつくられた虫が這う、煤けた粗末な小屋に独りで住んでいた。家は湿地に建っていて、リー川の洪水があるたびによく流されそうになった。川は夜になるとAtlas Worksの工場から流れ出る染料や、Achille Serreのドライクリーニング工場からのオイルや化学溶剤で堆積した土はキラキラしていた。…」最初の階に着くとそこからは川のせせらぎの音に混ざり工場の機械のような音が聞こえてきます。6畳ほどの小部屋の床には赤みがかった砂が敷き詰められ、オオサンショウウオのような生き物が小さな窓を覗いています。オオサンショウウオに見えたのは実はコルクの木の流木で、表面は使い捨てコンタクトレンズがぎっしりと鱗のようにメタリックカラーピンで止められています。砂のように見えたのは実はコルク材を砕いたもの。何でコルクなんだろう?とここで疑問が湧きます。 17世紀英国の科学者のロバート・フックがコルクの断面を観察し、多数の小部屋を見つけCellと名付け、 細胞発見の素材としても知られているコルク。英語のcellにはまた、監房、独房という意味もあり、作家はトムの監獄のような小部屋ということも示唆しているのでしょうか?

Hollow Projects ©Mhairi Vari

Hollow Projects ©Mhairi Vari

Hollow Projects ©Mhairi Vari

Hollow Projects ©Mhairi Vari

次の階へ向かいます。「…トムは(リー川の流れる)ホマトンにあるBritish Xylonite社(のちに現BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)に吸収される会社)で働いていた。会社は最も古いプラスチック工場の一つで、包丁やナイフやフォークの柄などをつくっていた。xyloniteは発火性が高く工場での作業は危険を伴っていた。1890年代に入るとプラスチック製品の需要の拡大に伴い、次第に新しく作られた大工場に作業は移行され、トムの働いていた小さな工場は閉鎖に至る。このためトムは必然的に解雇され、職を失ったトムはハック二ーの救貧院に収容される一週間前に、亡くなってしまう。…」聞こえてくるのはティクタック、ティクタックという、塔時計の音。中に入ると真ん中に塔が再築された16世紀当時からの大時計がありその周りには何やら白いアメーバーのようなものがニョキニョキと生えています。反対側の窓を見れば今度は小石のようなものがぎっしり窓際に並んでいます。どちらもよく見ればクリアラッブで何かをぐるぐる包んだようなもの。その何かは何だろうと、目を凝らすと赤や青の色がうっすら見えてきます。解説を読むとそれらは実は布団や枕、ジーンズや靴下などの衣類。トムがきていた服でしょうか?隣の窓からは泡のようなものが吹き出していて。こちらは紙でできています。床は白く雪のように輝く雲母の粉で覆われています。

Hollow Projects ©Mhairi Vari

Hollow Projects ©Mhairi Vari

最上階に向かいます。「…遺体が発見された翌日、 ロンドン警視庁は人嫌いで孤独だったトムに殺人の可能性があるか、悪名高い医師であるGeorge Fredrick Nortonとアシスタントとして地元の若い医師Simeon Conwayの二人に検視を依頼する。…検視はトムの頭蓋腔を調べるまでは特に変わりばえはないものだった。しかしノートンが頭皮を開くとその骨らしきものは奇形し、繊維のように波打ちながら頭蓋冠を覆っていた。…さらにその中は大脳の代わりに白くて柔らかいパルプ状のもので占められていた。…」部屋に近づくにつれゴオォーという風の音とそれにおり重なって鳴り続ける鐘の音が聞こえてきて、不安な気持ちをかきたてます。中央には銅製の釣り鐘が下がっていてその両脇にスピーカーが置かれています。スピーカーに鈴なりになってまるで波に揺られるよう動く海藻の気泡。床に敷かれていたのは土ではなく細かく砕かれた真っ黒のゴム屑。

悪夢から解放されるように階段を駆け下り塔の外へ出ます。毒性の高いプラスティック工場で働かされ、それが原因で亡くなった少年トム。19世紀の英国のお話ですが、発展途上国において現代でも同じような環境にある子供達がたくさんいることを、安価で便利なプラスティック製品を使うとき忘れてはいけません。St. Augustine’s Towerはボランティアグループによって運営されており、定期的なイベントの他、月に一回、最終日曜日に一般公開されています。

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