映像2019.05.29

九州男児症候群

第45話
とりとめないわ
Akira Kadota
門田 陽

 飲み会のとき。何かのきっかけで出身を聞かれ「福岡です」と答えると、「なるほど流石九州男児、だからお酒が強いんだ」と言われたことが二度や三度どころか二百回や三百回はあります。初っ端から話が逸れますが、この前の連休中に時間を持て余して僕は一体これまでにどのくらいお酒を飲んだのか計算してみました。約35年の飲酒人生。平均して週5日でおよそ9000日は飲んでいます。乾杯はビールかハイボールが多いですがその後は焼酎か日本酒。一日2合だとして18000合だから180升、仮に3合でも270升。人間意外と飲めないもんだとヘンな納得をしたりしました(苦笑)。

 話を「九州男児」に戻します。「九州」と「男児」が組み合わされたこの言葉。他の地方ではあまり聞かれません。「北海道男児」も「関東男児」も「関西男児」もいずれも5、6才の男の子の方の意味になると思います。広い意味では「日本男児」と似た使われ方かもしれませんが、特に日々ハラスメントやコンプライアンスを気にしないといけない令和の時代においては逆風に立たされている言葉の一つです。

 さてその九州男児。一般的なイメージは次にあげる九つ(九州なだけに)くらいでしょうか。

①お酒が強い。
②硬派。
③頑固者。
④亭主関白。
⑤短気。
⑥無口で不器用。
⑦祭り好き。
⑧年功序列。
⑨地元愛が激しい。

 いずれも反論の余地がありますが、それでも毎朝やっているテレビ番組の占いよりは信憑性が高い気もします。

 ①のお酒については地元の僕のまわりは飲む人が大半ですが下戸もいますし酒よりスイーツが好きな九州男児もいます。とはいえ、やっぱり飲んべえは多い。
②の硬派ですが、これは本宮ひろ志の「俺の空」の主人公安田一平では決してなく、長谷川法世の「博多っ子純情」の主人公郷六平です。主人公なのに垢ぬけなくてどんくさい。連載誌も「俺の空」は週刊プレイボーイで「博多っ子純情」は漫画アクションだったもんなぁ。でも当時はアクションが出るのを毎週(今のアクションは隔週発売)心待ちにしていました。例えが古くてゴメンなさい。
③の頑固者、④の亭主関白、⑤の短気、⑥の無口で不器用はどれも同じベクトル。ざっくり括るとザ・昭和の男!男尊女卑は言い過ぎですが三歩下がって歩く女性を好む人が多いのは否めません。全国的には九州男児代表は西郷隆盛のようですが⑥の無口で不器用のモデルはもちろん高倉健さんです!
 ⑦の祭り好きはどうなのか。僕は祭りは見るのは好きですが出たことはありません。「山笠があるけん博多たい」という北部九州生まれなら知らない人がいない古い地元のCMコピーが多少影響しているのかも。
 ⑧の年功序列、⑨の地元愛は若い人たちの間では薄れつつありますが基本年長者には逆らわないですし大多数がホークスファンです。

 僕たちコピーライターはいわゆる典型的でステレオタイプなものは信じるなと教育されてきました。モテないイタリア人だってリズム感のないジャマイカ人だってマラソンの苦手なエチオピア人だってジョークの下手なアメリカ人だって合理的でないドイツ人だっています。偏見はよくないことも十分わかっています。

 しかしそれでも人間は思い込みでできているんだということがありました。十連休明けの初日。会社のデスクで事務作業中、窓の外でガタゴト音がします。目をやると上からゴンドラで窓を拭く清掃の人たちが降りてきました(※写真①)。命綱を付けているとはいえ敵わないなと思う職業。どんな猛者たちがやっているのかと窓に近付いて驚きました。

/div>

写真①

 二人ともが若くてシュッとした女性だったのです。100%男性だと思い込んでいた自分が本当に情けない。お酒が弱くてナンパでにこやかなフェミニストで気が長く祭り嫌いでお喋りで年上にもタメ口で地元愛のないまるで新しいタイプの九州男児もいることでしょう。そんなヤツとは絶対に関わりたくないけれど案外友達になってしまう。忘れていました。九州男児にはもう一つ大きな特徴があってかなりのお人好しなのです。 

ところでさっき九州なだけに九つと書いたとき、僕が新人の頃に作ったポスター(※写真②)を思い出して恥ずかしい話はまたの機会に。

写真②

プロフィール
とりとめないわ
門田 陽

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局 クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

TAGS of TOPICS

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP