震災後の報道と受け取る側の問題

番長プロデューサーの世直しコラムVol.53
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
震災後、2ヵ月が過ぎようとしていますが、特に福島の原子力発電所ではまだまだ安心できない状況がつづいてます。 そのことについての、テレビや新聞の報道を見ていると、やっぱりものすごい違和感を感じることがあるし、受け取る側の態度をみても違和感だらけですね。 「こいつら、どっちも大丈夫か?」と思うのです。 新聞やテレビは、ただただ政府の発表を垂れ流しているだけです。 たとえば、原子炉建屋が水素爆発を起こして吹っ飛んじゃいましたが、そのときの政府の発表は「圧力容器の損傷はありません」でした。 「そんなばかな」。コンクリートの建物が吹っ飛ぶくらいの圧力が内部でかかっているなら、圧力容器のどこかが割れてるでしょうよ。テレビで毎日、いろんな説明を聞いて、なんとなくわかってきたけど、それだけ頑丈な圧力容器が割れるということは燃料棒が熔解して圧力容器を溶かして破損させたんじゃないの。報道を見ていて単純にそう思っちゃったし、実際そうでした。とても危険な状態がつづいていたわけです。悪い方に転べば、東日本は無くなっていたかもしれないくらいの事態だそうです。 政府の発表というのは、確証情報しか出さないことになっています。その時点で確証はなかったのでしょう。でも、素人が考えても原子炉内部が原因だと推測できます。そういう重大事を、政府が発表しないとマスメディアも発表しない。本来、マスメディアは独自の調査をして、推測でもそのことを報じるのが仕事じゃないのかと思うのです。スクープっていったいなんなんだろう? 政府の最大の仕事は治安を守ることです。 大衆の不安は、治安維持が絶対条件の権力(政府)にとっては都合が悪い方向に働きますね。だから、たまに、マスメディアは政府に都合のいいことだけを報道しますが、それは政府と共通の利害があるからというより、治安を守るという最大の目的を政府と共有する必要があるからだと考えることもできます。 しかし、やっていることは、まさに大本営発表。マスメディアはなぜか大本営発表だけを垂れ流したのです。それは、マスメディアの、治安を守るという機能を働かせたようには見えませんでした。コメンテーターの高名な学者も立場をはっきりとはさせず、専門家なら気づいていただろうその事実も、あえて隠して報道を避けました。なんでそんなことになってしまうのか? 結局、「無難だから」という理由だけで各社示し合わせて政府が発表するまで問題は先送りにしていたんだと思います。そういうところにも日本病が出てくるんです。日本人病。画一化と大政翼賛会化。自分の所だけ他と違うことを言っちゃって、世間をパニックにしたら自分たちだけ責められる。赤信号みんなで渡れば怖くない。あとでばれたらみんなで土下座。「遺憾に思います」。 主要テレビ局などは、バラエティ番組の再開もACじゃないテレビコマーシャルを解禁することも、なぜかみんな同じタイミングでした。バラエティを始めたら、時期尚早だと叩かれる。「自分のところだけ叩かれるのは嫌だから、やるならみんなで一緒にやりましょう」という申し合わせができている。とにかく無難でさえあればいい。 テレビ局各社は最近コンプライアンス部という部署を作って、不適切な放送に対してや外からの苦情に対して、ある程度内部に向かって発言力を持っています。それがひとり歩きしている傾向にもあるそうです。それで「思い切った番組作りができない」とぼやいていたテレビの制作者もいました。今回のことも、その部署が大騒ぎしている可能性もあります。 その結果、事実が視聴者に伝わらないという問題が出てきます。 これが大きなマスメディア不審につながらないか心配です。 海外の、CNNやBBCの放送している福島の原発関連のニュースは、日本の報道に比べるとずいぶん怖い内容だったのも記憶しています。それは独自に調査した内容をふまえて、推測も含めて忠実に報道されていたからです。 実際、原子炉建屋が吹っ飛んだときには放射能は「だだもれ」になっていたわけで、「放射能漏れはありません」と発表しつづけた政府には問題があります。危機管理という意味では破綻してるんじゃないのでしょうか? それを大本営発表として垂れ流した大手民放各社も新聞も、すぐ後から出てくる「事実の攻撃」をどうとらえるのでしょうか? ウソの報道をしたことにはならないのでしょうか? いっぱい人が死んでいたらどうなっていたのでしょうか? ひるがえって、情報を受け取る側はどうでしょうか? 今回の震災での原子力発電所の事故に関して、驚くべきことが身のまわりにあることがわかりました。自分の知り合いの中で、結構大勢の人たちが、「原子力発電が危険だ」ということを「知らなかった」というのです。びっくりしました。 正直なところ、「この人たちは馬鹿じゃなかろうか?」とも思いました。 原子力発電がやばいことなどみんな知っていると思っていたからです。それは、自分の生き死にかかわる重要な問題のひとつなのです。 僕の田舎には、九州電力の玄海原子力発電所というのがあって、小学校の時に、遠足で見学に行きました。そこで受けた説明では、原子力は二酸化炭素を出さない夢のエネルギーだけれど、使用済みの核燃料の処理の方法がまだ確立されておらず、漏れ出すと人が死ぬとのことでした。 その後、忌野清志郎が反原発の歌を唄って発売禁止になったり。大騒ぎをして、青森県の六ヶ所村に使用済み核燃料の施設もできました。佐世保に米軍の原子力空母が入港するごとに、原爆に苦しんだ長崎の人たちは入港反対デモを繰り返し、007などの映画でもチェルノブイリを扱って放射能の怖さを描いていました。最近では新潟の地震の時に、柏崎刈羽原子力発電所で事故が起きました。北朝鮮では核爆弾の製造を含む、原子力発電所の施設をめぐり、六カ国協議がいまもつづけられています。問題は、ずっとそばにありました。 そういうことが、何が起きているのか? 何のことを言っているのか? 何も気にしないで暮らしている人が結構いるということですね。原子力発電所よりも、そういう人たちの方がやばいと思うのです。 ある歌手が、自分の持ち歌を替え歌にして「原子力発電はやばいんだ、教科書もCMも安全だと言っていたじゃないか。ずっとウソだったんだぜ」という内容を歌うビデオを撮影してインターネットで発表し、まるで英雄のように賞賛されたりしました。「知らなかった」人たちは、こういうことになるとヒステリックに反応して、「騙されていた、うそつき、原子力発電はやめろやめろ」と急に声高に叫び出します。 この国は大丈夫なんでしょうか? 原子力発電所が危ないのは衆知の事実です。 でもとにかく、100%安全なことなんてこの世には存在しないのです。自転車に乗っていても、徒歩通勤でさえも事故に遭うリスクは0ではない。みんな、今まで使い放題使っていた電気の3割は原子力で生み出されたもので、その恩恵に授かっていたという事実。 また、地方行政と原子力発電所は原発交付金のやりとりでどっぷりひっついていて、地方自治体の財政を支えて、切っても切り離せなくなっています。 そんな当たり前のことを「知らなかった」くせに、その代わりとなるエネルギー対策を提示するつもりもないくせに、「ぎゃ~」となっていることがいかに浅ましいかということがわからないのでしょうか。 国の発表も、事後の対策もいい加減なら(必死でやられているんでしょうけど、結果としてはお粗末ですね)受け取る側の民度も低い。これが今の日本の実情だということがばれました。 今は非常時です。 政府やマスメディアがやばいことを発表しなかったとしても、言論の統制なんかもあるわけがないんだから、事実や正しい推測はそこら中に転がっています。CS放送やインターネットでは海外の報道も見ることができるし、地上波で報道されなかった記者会見の端々まで見ることができる。海外の専門家の見識もいっぱい発表されているじゃありませんか。 当然、ウソやデマもばらまかれています。信用できる情報ソースを自分で決めて、自分はどう動くか判断する材料にすればいいだけですね。 なぜ、自分の身は自分で守ろうとせず、誰かのせいにばかりしようとするのでしょうか?もう、そういう甘えた態度はなしにしませんか? 子供を疎開させたくても周りの目があってできないとかいう話も聞きますが、自分が、子供が、死ぬかもしれないのになんでそんなことが気になるのか? 自分で判断しましょうよ。と、思う。 いかなる場合も「自分の大事なことは自分で決める」ということを自分の責任としてやっていかないと、死んでもだれにも文句は言えないのです。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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