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カラオケスナックにて

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.146
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木 光

うちのバスケ部、ロックスには「カラオケ部」があります。
つまり、バスケ部のメンバーでカラオケ好きな数人でたまに歌っているだけなんですが、
極力、カラオケボックスみたいな閉鎖された店には行かないことにしています。

うちのメンバーは役者やモデル、歌手、ヘアメイク、カメラマン、建築家、映画監督、いろんな
職業の人がいるんですが、仕事にも私生活も共通して大事なことは「人を喜ばす」ということです。
これからの表現者も多いので、全然知らない人に自分の歌を聞かせて盛り上げられるか?
というテーマで、カラオケスナックや大箱のカラオケ屋に行って他人の前で歌う事にしています。
それを「試合」と呼んでいます。全然知らない新しい店に入ることを「アウェイ」と呼びます。
「アウェイ」のはしごをした時は「修行」になります。

モジモジしてた建築家を鍛えて面白い男にするために始まりました。アウェイ試合。

先日、バスケの練習の日、帰りに晩御飯を食べた後、「試合すっか」という話になって
恵比寿の広いカラオケ屋に行きました。 大きいワンフロアにテーブル席が5つくらい。名物のじいさんが店長の店です。
古くて雑で、きたなーい店なんだけど安いからかいつも満席。
どこで知るのかオーストラリア人の観光客の集団がボンジョビを歌いまくっている時もあります。そんな店。

L字型のフロアの角にカラオケの機械とモニターがありそれを中心に両壁際にテーブル席がある。
僕らは5人で端っこのテーブル。隣は会社帰りのような女性3人。反対側にはもうすでに
ベロベロのサラリーマンの集団2組って感じ。

「まず行かんかい、建築家!」って事で修行中の建築家が最初に井上陽水を歌い出しました。
すると隣のテーブルの女子3人が少し騒がしくなりました。応援してくれている訳ではありません。建築家の歌のボリュームに合わせておしゃべりのボリュームをあげたのです。 話の内容は会社で自分の仕事ぶりを評価してもらえないことへの怒り、みたいです。丸聞こえ。
歌う気はまるでないです。3人で力強く会話しています。

遠くのテーブルの客は建築家の陽水を喜んでいます。

「歌いづらいっすねー」1曲歌った建築家が悔しそうです。
「よかよか、そういうこともあるくさ。もう一曲行って黙らせんしゃい」
と建築家2曲目、沢田研二。意地になってきました。建築家、歌声がでかい。
選曲が古いのは全体の客層を見ての彼なりの作戦です。

おしゃべり女子軍団、全く聞く気なし。おしゃべりのボリュームをまた一段階あげてきます。
「あんたんとこチーフは松本さんでしょ。ちゃんと言ったほうがいいよ、松本さんにー」
「言ったってしょうがないよ。なんにもわかんないんだから、あのじじい!」
「ちゃんと会社で主張しないとあんただけ損してるんだよ!松本さんはダメよ!」
めちゃくちゃうるさくなってきた。カラオケの音量を超えて話そうと彼女らも必死です。

すげえなこの人たち、おしゃべりしたかったらカラオケ来ないで居酒屋いけよ。
チーフの松本さんも大変なんだろうなあ。
2曲目もかき消されてしまいました。
その後、反対側のテーブルの人たちが昔のアニメソングで盛り上がってる時もお構い無しに大声トークは続きます。

「仕方ねえなあ、俺が一丁黙らせてやるか」と矢沢の曲を入れて、カラオケの機械まで行ってマイクのボリュームを上げました。うちの集団はお決まり事で、タオルの代わりにおしぼりを投げます。 一生懸命歌いました。「乗ってくれッ、カモン、ハーハッ」わざわざ大きく。
それでも3人組は負けじとボリュームを上げてきます。もう叫んでるとしか思えない話し方。
「だからさー、あんたんとこの新人もバカばっかりでさー、松本さんも注意しないからさー」
「ぎゃー、マジであいつムカつくー、殺したいー死んでほしー」 物騒な話になってきました。

もう敵わないなあと諦めかけた時に、「ここ、ちょっとうるさいねー」と言って女子3人が帰って行きました。客がみんなで拍手で送り出しています。おつかれさん。うるさいのはあなたたちよ。 まあ、ちゃんと言えばよかったんですが、
「すみません、楽しく歌ってるのでそんな大声でお話ししないでいただけますか?」って。
いつかはわかってくれるだろうという淡い期待と、彼女たちの怒りのエネルギーの激しさで
怖くて言えなかったのです。
彼女らも、最初は歌いに行こうと思ったんでしょう。話しているうちにエキサイトした。
ある話題に触れて、思い出しむかつきして引っ込みがつかなくなったんでしょう。
歌なんてどうでもよくなった。そういう事だと思いたいです。

建築家は 「ああいうのでも歌で黙らせるくらいの歌、うたわなきゃいけないですね」
と、残念そうにぼそっとつぶやきました。やる気はなかなかしっかりしてきたね君。
「無理だよ。ああいうの、無神経だもん」「カラオケ店に失礼ですよね」
「無礼だよな」みたいな会話になって、ふと思いました。

ああいう人たちは今まで何十人も見てきました。若さや時代、世代のせいではありません。
昔からいる。おじさんたち、おばさんたちにもよく見られる光景。
他人のやってる事なんかどうでよくなっちゃう人たち。
カラオケスナックからカラオケボックスに人気が移っていったのも少しわかります。
そういう人がいると、全く関係ない他人と空間を共有しながら歌を歌うのはきつい行為です。
一緒になって盛り上がる時は全然知らない人とその場限りの絆すら芽生えるんですが。

カラオケスナックに来て一曲も歌わないで、マイク越しの他人の歌より大きな声で喋り合って、
ここはうるさい、と悪態ついて帰る人たちはすごいと思った。
それはそれで何をしようと勝手なんですけどね。勝手なんですけど、なんというか
自分だけ居るわけじゃない。

というように大したことのない場所で、無神経な人が増えたように感じるのです。
なんでだろう?電車に乗ってる時や、コンビニにいる時や、
全然関係ないやつが書き込むSNSの意見にもイラっとすることが多い。
いい歳したおっさんにも多いし、周りの見えてない若者にも多い。

作為的にやってるなら大したものだと思いますが、どこかのオリンピックとサイバーセキュリティ担当大臣とか。レンポウサン。 また、わざわざテレビで取り上げることか?と思うような、バイトテロのバカ動画なんだけど、それを、普通にやっちゃいけないんだとなんでわからないのかが不思議ですね。

失礼と無礼と非礼という言葉がある。

「失礼」は、礼儀を知っているのにかかわらず、失っている状態。礼儀を欠く。
もともとはあった礼儀が無くなっている様子。

「無礼」は、礼儀を知らない状態。礼儀をわきまえないこと。 怒ったり悲しんだり、感情的になるくらい礼儀を外れているときに使います。

「非礼」は、礼儀に背くこと。礼に従わず、反抗したり反対したりしている様子。
もっとも礼儀を外れた状態。 と書いてあります。

だから
失礼<無礼<非礼
の順番で意味が重くなって行きます。

実は仕事で失敗して謝りに行くときに、自分の失敗が
「失礼」なのか「無礼」なのか「非礼」なのかちゃんと把握して
謝罪の言葉の中に織り込まないと、受け取る側が神経質な常識人だったときに
怒りを増幅させることになることがあります。

失礼なことしてないか?無礼じゃなかったか?非礼な振る舞いではないか?と
自分の行動に神経を使いながら道を歩かなきゃいけないんだと思うのです。
特に、「酒の席は無礼講」ってのは嘘ですからね。酔っ払いで失うものは大きいです。

非礼は殴られても仕方ない。失礼は怒られても仕方ない自覚がある。
この中では無礼が一番ダメな感じがしますね。無自覚に礼儀を欠くから。
無礼は無神経です。悪いことしたと思っていない。鈍いのです。
「ここちょっとうるさいねー」といってカラオケ屋を出る奴、は鈍いと思う。
自分のことばっかりな奴がいっぱいいます。
遊んでる時のことなのでどうでもいいと言えばどうでもいいんですけどね。

お前がいうなって感じですが。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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