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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

継続は力と絆なり? Repeat Repeat @Freelands Foundation

Vol.80
London Art Trail 笠原 みゆき

Freelands Foundation Gallery 入り口

Freelands Foundation Gallery

節分を迎えたというのに未だ小雪の舞うロンドン。白い息を吐きながら地下鉄チョークファーム駅を出て南へ橋を渡ると、右手に鶯色で“チョークファームガレージ”と書かれたサインのある赤煉瓦造りの建物が見えてきます。今回はここ、北ロンドンのカムデンにオープンしたばかりのFreelands Foundation Galleryより、グループ展“Repeat Repeat”の紹介です。ギャラリーは駅から徒歩3分。

William’s Scooter, 2014 - ongoing ©Simon Wells & William Swift Wells

入り口で出迎えるのはピンクの子供用スクーター。スクーターには紐のようなものがミイラみたいに巻かれています。でもよく見るとぐるぐる巻かれているのは太い輪ゴム。この輪ゴム、どこかで見たことあるような…?実はこの輪ゴム、郵便配達員が郵便物をまとめておくのに使うもので、配達の際、落としてしまうのでしょう、よく道に落ちているんです。作家のSimon Wells は息子のWilliamと毎日散歩をしていました。そんなある日息子は道に落ちていた輪ゴムを見つけ、スクーターに巻きつけます。一つ見つけるとまた一つとどんどん見つかります。やがてそれが二人の散歩の日課になってさらには近所の子供達も巻き込んで、スクーターに現れた輪ゴムのオブジェはとうとう猫のミイラほどの大きさに。元々アート作品を作るのを目的としたわけではなかったのにアートになってしまった父と息子の共同作品は “William’s Scooter, 2014 – ongoing”。

Starlight Cafe, 2012 - ongoing ©Joseph Cartwright

日本でカフェというとおしゃれなイメージですよね。英国でカフェというとGreasy Spoon と呼ばれる、油を使った料理の多い、庶民的な食堂のことを指します。Joseph Cartwright は Starlight Café (星明かりのカフェ)というロマンチックな名前のついた全くロマンチックでない近所のカフェにほぼ毎週土曜日彼の子供達と通い、ベーコンロールを食べながらそのテーブルに並べられていたソースなどの調味料の写真を取り続けました。作品は “Starlight Café, 2012 - ongoing”

Study for Ten Months,1977 - 1979 ©Susan Hiller

Study for Ten Months,1977 - 1979 (詳細、八ヶ月目) ©Susan Hiller

美しい弧を描く月の満ち欠けのような作品は一体?作品はSusan Hillerの “Study for Ten Months,1977 – 1979”。自らの身籠った腹部を十ヶ月に渡って撮影し、月の満ち欠け表すルナカレンダーのように仕立てて月ごとにコメントをつけた作品。この作品を最初に発表した70年代当時は妊婦が腹部を公にする事自体センセーショナルだったため、論争を巻き起こしたそうです。アメリカ生まれですが、英国に拠点を置いた女性のコンセプチュアル・アートの先駆者であったヒラーは先月の28日に他界されました。ここでお悔やみを申し上げます。

Tag um Tag Guter Tag シリーズの一枚 1974 - ongoing ©Peter Dreher

写真のように写実に描かれた空のガラスコップは実は油絵。全て同じに見えますが、一つ一つ写り込みなど微妙に違っていて “No.2209 Day”, “No.2642 Night”…とナンバーが鉛筆で記されています。ナンバーは作家が同じコップを描いた回数で、そのキャンバスの数は何と5千枚! ほぼ半分ずつ昼と夜に描かれているそう。作品は1974年から続けられているPeter Dreher の Tag um Tag Guter Tag シリーズ。

Morning Plymouth, 2016 - 2019 ©Ben Borthwick

真っ青な晴天日、どんより曇りの日、薄暗い雨の日、真っ赤な朝焼けの日とデジタル写真は刻々と変わって行きます。高層ビルの一角からでしょうか、どの画像もどこか高いところから見下ろしている様な風景です。実は画像は作家が三年間、毎朝娘を学校へ送る前に部屋の窓から撮った写真。朝起きてカーテン開け写真を撮り、娘と歩いて学校に行く、そんな朝の日課。作品はBen Borthwickの “Morning Plymouth, 2016 – 2019”。

Daily String Drawings, 2011 - 2015 ©Andee Collard

Daily String Drawings, 2011 - 2015  ©Andee Collard
全ては展示しきれないので壁のもの以外は箱に収納され展示されていた。

 

壁一杯にぎっしり並べられているのはA5サイズのドローイング。その一つ一つに描かれているのはどれも同じモチーフの糸玉。Andee Collard は制作時間の限られていたフルタイムの教員をしていた四年間、毎日一枚のドローイングを描くという課題を自分に課して、同じ糸玉を毎日欠かさず描き続けたのだそうです。そんな努力が報われたのか現在ではフルタイムの美術家になったのだとか。作品は Andee Collardの “Daily String Drawings, 2011 – 2015”。

Repeat Repeat というタイトルのように、繰り返しをテーマにした展示でしたが、本業を教育職などに置く作家が多数を占めていて、何気ない日常や親子との絆が見えてくる作品が多かったのが印象的でした。

Freelands Foundationは、世界的なメディア王として知られるルパート・マードックの娘、エリザベス・マードックによって2015年に美術慈善財団として設立されました。翌年2016年には早速、女性の美術家を擁護するThe Freelands Artist Awardを立ち上げました。これは10万ポンドの賞金 (ポンド安とはいえ日本円で1420万円ほど!)を美術団体に与え、女性作家の個展などの支援もするというもので、英国美術界を賑わしました。この先も彼女がどんなをことを仕掛けてくるのか気になるところです。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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