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デットフォードの物語は続く Deptford X

Vol.76
London Art Trail 笠原みゆき

オーバーグラウンド駅デットフォードに降り、 柱に描かれた青いドットに導かれて歩いて行くと ”This way is art” と書かれたカラフルなサインがあちこちに目に入ります。何かのお祭り? 今回は南東ロンドン、デットフォードにて、1999年から今年で19年目を迎えるアートフェスティバル、Deptford Xの紹介です。まずは案内所であるフェスティバルハブのあるセントポール教会へ。入り口で地図をもらって中に入ります。

”Party Platform 2018”©Louise Ashcroft

”Party Platform 2018(Fleshing Board)” ©Louise Ashcroft

手前のテーブルの上に並ぶのは、装飾されたアルミ缶にチリソース、刺繍のされたサテンの赤布には、干し魚がその尖った頭を突出していて、魔除けか何かのよう? 天井からは着ぐるみ用のコスチュームが下げられ、丸テーブルには手作りのティーセットが並んでいます。でもこのティーセット、作った人の手形や指紋まで残ってる!こちらはLouise Ashcroftが3ヶ月間のレジデンシィを通じて地元住民と製作したコラボレーション作品”Party Platform 2018”。それぞれに題名がついていて、Protection Unit―作家が地元の商店や住人に商いや家を守ってくれるものとはと聞き込んで製作した住民へのギフト、Mascot Exercise ―共同製作したフェスティバルで街を練り歩くマスコット、Fleshing Board―フェスティバルの評議員に体の一部を押し付けて作ったティーセットなどと続きます。変な題名?と思うかもしれませんが、実はこれら、今年の5月からEU各国に導入されたEU一般データ保護規則(GDPR)を基に作られた今回のフェスティバルのデータ保護規則の項目名。 GDPRはEU内の全ての個人データ保護を強化し統合するものでDeptfordXのような小さな組織にまで影響を及ぼす規則であることを暴いていますが、EU域外への個人情報の輸出も対象としているため日本は関係ないよとは言っていられないかも!?

”Fox, 2018” ©NT

マーケットヤードへ向かいます。映し出されているのは夜のデットフォードを一人孤独に徘徊する若者の映像。街行く人々も彼の存在に気を止めません。ロンドンで夜行性の野生動物といえば狐ですが、存在を消して静かに徘徊する若者の様子はまるで狐のよう。作品はNTの”Fox, 2018”。そういえばちょっと前に科学雑誌で野生動物が人間を避けるためどんどん夜行性に移行しているという記事を読んだことを思い出しました。 若者の姿は煩わしい人間社会を避け自由を求める個の姿を象徴しているのかもしれません。

”Home is Where the Work Starts 1988, 2018” ©Georgia Lucas-Going

”Home is Where the Work Starts 1988, 2018” 腰に巻いているのはアロエベラ、腕と頭に巻いているのはコリアンダーの葉 ©Georgia Lucas-Going

デットフォードハイストリートへ。家具や雑貨、本、服などがランダムに並べられたお店はどう見ても不用品を売るチャリティーショップ。アート作品はどこ?とキョロキョロすると、奥にTVモニターが。映像に映し出されているのはそれぞれの愛する男性を失い、女性だけになってしまった三世代に渡る家族の姿。最初は故人の遺品にすがり、泣いていた三人の女性ですが、全てを処分、悲しみを克服するため心機一転してアートパフォーマンスに挑みます。作品はGeorgia Lucas-Goingが作家自身の家族を描いた”Home is Where the Work Starts 1988, 2018”。会場であるチャリティーショップは1971年に設立されたDeptford Action Group for the Elderly(DAGE)という、高齢者を支援する地元の慈善団体によって運営されており、ショップだけでなく孤独になりがちな高齢者が気軽に立ち寄れるよう、平日週一回無料で軽食を提供するサービスも行なっています。チャリティーショップには、素晴らしい掘り出し物からなんでこんなもの売ってるんだろう?という疑問の湧くものまで様々なものがありますが、その中の多くに個人の大切な思い出のあるものの、なんらかの事情で処分をせざるを得なくなったものが含まれていることを忘れてはいけないと思いました。

“A Logo Stands Out Against a Soiled Background, 2018” ©Laura Yuile


さて、上記はレジデンシィを含むフェスティバルのために委託製作された6つの作品のうちの3つ。その他はというと、小石で覆われた白物家電やマネキンで古代に引き戻されるLaura Yuileのインスタレーション“A Logo Stands Out Against a Soiled Background, 2018”。障害者でありながら奴隷として重労働を強いられたアメリカの障害者女性の歴史の紐を解くShawanda Corbettのパフォーマンス“Evocation of Buked, 2018”。デットフォードを舞台にフェスティバルやその会場で起きる惨劇を描いたDavid Steansの短編ホラー集”From the Lounge, 2018”。また、今回は紹介できませんでしたがこれらに追随する形で近辺のギャラリーやカフェ、ポップアップスペースなど61箇所もの会場が、フェスティバルのフリンジ会場として参加していて、また機会があったらこちらに焦点を当てて紹介できたらいいなと思います。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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