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COLUMNコラム・ザ・ちゃんこ

太陽のせいにしてゴメン

とりとめないわ 第36話
とりとめないわ 門田陽

この夏、命にかかわる危険な暑さという言葉を初めて聞きました。そして何度も聞きました。確か梅雨時には命にかかわる危険な大雨という言葉もよく聞いたと思います。近い将来、日本は四季の国から雨季と乾季のある国に変わるかもしれません。ともかく異常に暑い夏でした。

夏の暑さは人を狂わせます。

朝からNHKがためらわずに冷房を使うことを呼びかけ、水分補給をして外での運動は極力控えてくださいとアナウンスした直後に冗談のように始まる夏の甲子園。今年は特に第100回記念大会ということで盛り上がりました。僕もついテレビの前で力が入り、金足農業フィーバーにそそのかされ、気が付けばにわか高校野球ファンの出来上がり。そうなるとテレビだけでは我慢できずウズウズしてしまい、生で見なくちゃ応援しなくちゃと気持ちが燃えます。これはきっと夏のせい、暑さのせい。暑さは人に唐突な行動を起こさせます。カミュの小説「異邦人」で主人公のムルソーが殺人の動機を夏の暑い太陽のせいにしたことを思い出しました。

思い立ったが吉日。8月18日(土)、突然猛烈に甲子園に行きたくなって調べると翌19日の朝10時に準決勝と決勝のチケットが発売されることがわかりました。それでさらに気持ちが高まり、普段落語や芝居のチケット取りで身につけたセブンイレブンのチケット朝10時打ちも功を奏して20日準決勝の内野指定席をゲット!月曜早朝、急いで会社に休暇届けを出していざ甲子園球場に向かいました。

甲子園に行くのは二度目。前回は38年前の高校生の頃、新聞部の取材でした。第62回大会で荒木大輔いわゆる大ちゃんフィーバーの年(余談ですがフィーバーという言葉は死語のようでちゃんと生き残っていますね)。でも僕が見たのは岩国商業対美濃加茂高校という地味な試合でした。岩国商業のアルプス席で観戦したことを覚えています。今思えばこの年の決勝戦は荒木大輔の早実対優勝候補横浜なので今年の決勝戦と似た構図。そういえば横浜のピッチャーは愛甲猛でしたっけ。

写真①

さて8月20日(月)、お目当ての第1試合日大三高対金足農業の開始直前に甲子園球場に着きました(※写真①)。で、席に行くと僕の椅子の上に大きなクーラーボックスが置いてあります。足元はコンビニのビニール袋が大量に氾濫しています。持ち主はすぐに判明。隣席の大きな男(かなりの太っちょ)の荷物です。え!?ここで生活でもするの?というくらい自分の席もリュックやバッグやコンビニの袋だらけ。何とか僕の席の荷物を寄せてもらいましたがこの人がなかなか試合に集中させてくれませんでした。プレイボールの前からクーラーボックスにしこたま買い込んだ缶ビールを出してそれをリュックの中から出した紙コップに注いでジャンジャン飲みます。売店で買ったフランクフルトを両手に持って次々と食べます。そして試合開始と同時に大声で野次ともいえない罵詈雑言をグラウンドに向かって叫び始めました。前後左右すべてのお客さんがこちら(僕の隣席)を振り返ります。あまりに酷い汚い言葉。高校野球の空気とかけ離れた下品さ。まるでネットの書き込みのような。言葉の語尾は「死ね」か「ボケ」です。

弱ったなー、どうしようかと思っていると2回裏くらいから急に静かになりました。隣に目をやると寝ています。3回表にはいびきもかいてグッスリです。グラウンドは緊張感あふれるいい試合でした。結局隣の人は試合終了まで寝たままで終了と同時に起きて「いいぞ~、金足~~!」と至極真っ当なことを叫びました。これもまた夏のせい、暑さのせいだったのでしょうか。

写真②

暑さと隣席にクラクラしたので第2試合は遠慮しました。東京の家に戻って真っ先に本棚からあの本を探しました。ありました。新潮文庫の「異邦人」。あれ?ページを開くと違和感があります。字が小さくて読みにくく、薄くてペラペラ。奥付を見ると58刷り、1977年に購入しています。中学生でした。値段は180円。当時はまだ消費税はありません。すぐに本屋へ行って現在の新潮文庫「異邦人」を買いました。2018年5月30日で132刷り。内容は変わらないけど文字が大きくなって36ページも増えています。値段は税別で460円。見た目もずいぶん変わりました(※写真②)。読みました。感想は特にありませんというか、昔読んだときのようにドキドキしませんでした。理由はこの40年間で太陽のせいにするような不条理な出来事が日常茶飯になったからかもなぁ、としみじみ思った長い夏の一日でした。

ところでこの夏は「平成最後の」という言葉もよく耳にしました。このあともきっと平成最後の秋、平成最後のクリスマス、平成最後のお正月と続くという話はまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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