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絶滅種が帰ってくる!? Marcus Coates @Workplace Gallery

Vol.69
London Art Trail 笠原みゆき

Workspace Gallery

さて今月はどのギャラリーにしようかなぁとインスタグラムのポストを眺めていると“Extinct Animals (絶滅した動物たち) Marcus Coates @Workplace Gallery" というキャプションのついた友人のポストが目に飛び込んで来ます。これは見ないと!と早速バスに飛び乗りメイフェアへ。今回はWorkplace Galleryからマーカス・コーツの個展、“The last of its Kind"を お届けします。ギャラリーはオックスフォードサーカス駅から徒歩3分。

"The last of its Kind, 2017" ©Marcus Coates

中に入るとまず聞こえて来るのは中年オヤジの叫び声。「石油も、プラスティックもラジオも自転車もあるし、デモクラシーもバイブルもX線も核爆弾も国連も…ある!」そして、流氷を遠くに臨む荒い岩肌の海岸で、裸になって叫んでいるコーツの姿が映し出された映像が目に入ります。 全ての人間が滅びて最後に一人生き残った人という設定で、リストに挙げているのは人類の偉業。 最期の人というと真っ先に思い浮かぶのは、21世紀末を舞台に謎の疫病により一人を残し全ての人類が滅びる、メアリー・シェリーの長編、“最後の人間"(The last Man, 1826) 。その影響を受けていると思われるこの作品は"The last of its Kind, 2017"。

オオウミガラス The "Great Auk, Northern Penguin, or Gair-Fowl", wood engraving by Thomas Bewick in A History of British Birds, 1804

さて、先程の海岸は一体何処?と気になる方も多いかと思います。実は、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州にあるニューファンドランド島の周囲で一番大きな島、ファーゴ島。人口は2,244人(2016年統計)。ここでは1852年に絶滅したオオウミガラス(Great Auk)の狩猟がかつて盛んで、肉から卵、油、羽根に至るまで主にヨーロッパへの輸出品として捕獲利用されました。ところで、オオウミガラスって?とピンと来ない方もいると思うので参考までに上のThomas Bewickの版画をどうぞ。白と黒のユニホーム、飛べない、水中では高速で泳ぐことができたものの、陸上では体を立ててよちよちと歩いたオオウミガラス。なんかペンギンみたい!と思った方も多いと思いますが、実はこちらが元祖。属名"Pinguinus"で、その後発見されるペンギンを見た船乗りたちがオオウミガラスと見間違え、ペンギンと呼ぶようになったことが始まり。飛べないだけでなく人に対する警戒心もなかったために、数百万羽いたとされるオオウミガラスは、大乱獲によりあっという間に数を減らしてしまったのです。


話を戻すと、次の4枚は島民を代表して村長にその絶滅したオオウミガラスに対して謝ってもらうという映像作品“Apology to the Great Auk, 2017"(7分22秒)からの写真。


“Apology to the Great Auk, 2017" ©Marcus Coates

謝罪委員会の討議の様子。どのようにオオウミガラスに謝るのか議論を重ねます。


“Apology to the Great Auk, 2017" ©Marcus Coates


謝罪文を村長に手渡し、承諾してもらって…。

“Apology to the Great Auk, 2017" ©Marcus Coates

村長が大西洋に向かって謝罪文を読み上げます!

“Apology to the Great Auk, 2017" ©Marcus Coates

果たしてその声はオオウミガラスに届くのでしょうか!?


現在の島民は全て18世紀にアイルランドやイングランドからの入植者の子孫。それ以前にはずっと1820年代に絶滅した先住民のベオサック族が住んでいた訳ですからオオウミガラスに謝るんだったらベオサック族にも謝らなくちゃいけないんじゃないの?などと考えてしまうのは私だけでしょうか。


“Extinct Animals, 2018"(シリーズ作) ©Marcus Coates

この手の形は一体?一つ一つに絶滅した動物たちの名がつけられています。そう、手影絵です。作品は“Extinct Animals, 2018"(シリーズ作)。

“Extinct Animals (Japanese Honshu Wolf), 2018" ©Marcus Coates

一つ一つ見ていくと、こちらは “Extinct Animals (Japanese Honshu Wolf), 2018"。20世紀の初めに絶滅した日本オオカミ。オオカミといえばフランスでは1930年代にほぼ絶滅したと思われたオオカミが1990年代から徐々にイタリアから戻ってきていて今では360頭のオオカミが生息。そこで、先月フランス政府は、2023年までには500頭まで増やすと宣言しました。ただし家畜に危害を加える恐れのある場合、牧場主はいつでもオオカミを射殺できるという条件付きで。一方フランスでは2016年には約一万頭の羊がオオカミの被害を受けていてこれに対し政府は牧場主に3200万ユーロもの損害賠償を払っています。英国でもまた、スコットランドに再導入しようという動きがあり、昨年からWildwood Trustが数頭の飼育を始めています。アメリカのイエローストーン国立公園では、崩れた生態系を修復するに戻す試みとして、既に1995年からオオカミを再導入しており、成功を収めています。

“Extinct Animals (Irish Elk), 2018" ©Marcus Coates

最後はこちら “Extinct Animals (Irish Elk), 2018"。ラスコーの洞窟の壁画にも描かれているギガンテウスオオツノシカまたはアイリッシュエルク(Irish Elk)。アイリッシュエルクという名前を取っていますが、200万年前 - 1万2000年前に広くヨーロッパ、アジアから北アフリカまで生息していた大型の鹿です。角の差し渡しは最大4.3m、その重量は45kgを超えたそうです。絶滅種を戻そう、生態系を以前のものに戻そうという動きが世界中で起こっている中、クローン技術によっていつか戻ってくる日が来るかもしれません。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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