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ここはアーティストの理想郷? @Thames-Side Studios Gallery

Vol.68
London Art Trail 笠原みゆき

Thames-Side Studios Gallery

南ロンドンWoolwich Arsenal DLRの駅を降りてさらにバスで5分ほど北へ。テムズ川のほとりにずらりと並ぶ元倉庫や工場は、現在では全てスタジオ。広いなっ、一つの街みたい!と思わず、圧倒されます。それもそのはず、一箇所に470ものアーティスト・スタジオを収容するのは国内最大級規模。スタジオに伴設するのは体育館のように大きなギャラリーだけでなく設備の整った版画工房、写真のスタジオ、鋳造所やイベント・ワークショップスペースやカフェまでと至れり尽くせり。今回はそんなThames-Side Studiosギャラリーからで、展示のテーマはPhytopia。ギリシャ語で植物を意味する“Phyto"と理想郷=ユートピア(Utopia)を組み合わせた造語です。

Musk thistle, 2015 ©Edward Chell

静かな湖面のように光る深い藍色の画面中央に浮かび上がるのはアザミの花。アザミといえばスコットランドの国花。一説には1263年、足音を立てないよう裸足で夜襲をかけたノルウェー兵が、暗闇でアザミのトゲを踏みつけ、その叫び声を聞いたスコットランド軍が敵を追い払ったのが国花になったいわれだとか。作品はEdward Chellのアザミをはじめとする野草シリーズ画の一つ。

Guardians of the secret, 2011 ©Alica_Paz

これぞ現代の山水画?聖なる山岳には、宝石が眠っていて…。でもその秘宝を守るのは霊獣ならぬサイケデリックなモンスター達!作品はAlica PazのGuardians of the secret, 2011。

ネーチャープリント、Henry Bradbury

これは写真、それとも?よく見ると“printed in 1854"とあり、作品が19世紀の版画であることがわかります。 オーストリアのAlois Auer (アロイス・アウアー)は実際の植物を鉛やゴムに押し付けて型を取ることによって繊細なディティールを拾う、"Naturselbstdruck"(ネーチャープリント)の技法を1853年に発明。この作品はそのアウアーの技法に触発されたイギリス人のHenry Bradburyが1854年に製作したもの。アウアーの発明はその美しさだけでなく、植物学、博物学の分野にも資料として貴重な価値を残しました。

Lost Flower Mound, 2017 ©Rosa_Nguyen

きのこのかき揚げ、美味しそう?こちらはアナログな3Dプリント、キノコや摘みたての野草を粘土で型取りして焼いたセラミック製の作品。Rosa NguyenのLost Flower Mound, 2017。

The Voyage of Discovery, 2014 ©Yu-Chen_Wang

これは植物と関係ないんじゃない?でもよく見てくださいね、ロボットの端には花が咲いていて、葉が付いていて、真ん中にはちゃんと実がなってる!植物サイボーグのような鉛筆の描写はYu-Chen WangのThe Voyage of Discovery, 2014 シリーズの一つ。

HFT/Diagrams, 2016 ©Susanne_Treister

さて今度はアメーバ?それとも菌糸か何か?右上のJapanと書かれた菌糸を見れば、Takeda pharmaceutical(タケダ薬品)とあり。じゃあ、右下のUK(英国)はというと、英製薬大手のGlaxoSmithKline(グラクソ・スミスクライン)、通称GSKの名が。そういえば数年前、GSK出身のウェバー氏がタケダの創業以来、初めての外国人として社長に就任し話題になったのは、記憶に新しいかと思います。他の図表(全16種!)は、コンピューター会社や金融会社などで、 図表からそれぞれの分野の取引や勢力図が生き物のように浮かび上がってきます。作品はSuzanne Treisterの HFT/Diagrams, 2016 シリーズの一つ。

Hollyhocks (1989頃) ©Derek_Jarman

向日性があることから「仰ぐ日」の意味のある葵(アオイ)の花。こちらはタチアオイ(hollyhocks)をブロンズ鋳造したもの。 作品はDerek JarmanのHollyhocks (1989頃)。エイズ感染が発覚し、余命長くないことを知ったジャーマンは英国の唯一の砂漠と知られる、ケント州の荒涼とした美しい岬Dungenessに移り住み、小さな家を建てます。そして原子力発電所を目の前に望むこの家を美しい庭で飾り、製作を続けます。ここからメディアに追われ、世間に蔑まれた同性愛のカップルの悲惨な死を描いた映像作品“The Garden"(1990)も生まれました。The Gardenはサッチャー政権下に作られた「公的な教育現場で同性愛を助長してはならない」とする、通称「セクション28」と呼ばれる法律(のちに全廃)に反対した作品でした。同性愛カップルの結婚は合法、街に子連れの同性愛カップルが普通に見られる現在の英国からはとても想像できませんが、時代は変わるものと思わせる作品です。会場にはThe Gardenの手書きのシナリオや資料や写真も同時に展示されていました。ガーディナーとしても知られるジャーマンですが、色とりどりのタチアオイが太陽に向かって咲乱れ、砂漠に浮かぶように現れた美しい庭はまさに理想郷のような風景であったに違いありません。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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