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巣立てないコレクターの夢?! Natural Selection


Vol.65
London Art Trail 笠原みゆき

Natural Selectionの会場。南ロンドン、エレファント&キャスッル駅から徒歩3分。


羽ばたくカラスのイラストが描かれた建物の窓。一歩中に入れば巨大な鳥の巣のようなアーチがお出迎え!アーチをくぐり抜けると映像が現れ、二人の男性が鳥の巣について解説をしています。二人はAndy HoldenPeter Holden。今回は鳥類学者のピーター(父)とアーティストのアンディ(息子)親子のコラボレーションです。このコラムでもお馴染みのアートエンジェルのコミッションで、タイトルはチャールズ・ダーウィンの理論、Natural Selection(自然選択/自然淘汰説)より。


映像作品 A Natural History of Nest Building, 2017(30分)の一場面。中央に映し出されているのは竃鳥の巣。左がアンディ、右がピーター。
©Andy Holden & Peter Holden


蛇に襲われないようにどんどん長く編んでいったものの蛇もそれに対応してどんどん長くなっていったというweaver bird(和:機織鳥)の巣。アフリカで最初に人が草木の編み方をこの鳥から習ったという説もあります。 泥をこね、自らの体を建築の物差しとして使い、螺旋状の竈(かまど)のような巣を作るOvenbird (竃鳥)など、 映像の中でアンディは作家として素材の選択から、そのプロセスまで細かく解説をしていきます。ネイチャーの番組を見ているようで思わず引き込まれますが、鳥の巣作りのみに焦点を当てたネイチャー番組は以外にないかも?

Untitled (Bower), 2017 ©Andy Holden

先程のアーチ、気になりますね。これはbowerbird (和:庭師鳥)の作る「あずまや」を人丈に再現したもの。オスは繁殖期になると直径1–3mほどの区域から落ち葉や枯れ枝などを除いて、土をならし、庭を作り、さらにその中にバワー (bower、あずまや) を建てます。そして周りや中を色彩豊かな花や小石、貝殻、ガラス片、プラスチック片などで美しく飾り、メスを呼び込みます。種によってはベリーなどの果実を潰しバワーを彩色するものも!もう芸術家ならぬ芸術鳥?!進化論を唱えたダーウィンも「 人が持つ美の意識をこの鳥は持っているに違いない」と語っています。

Collection of Nests, ongoing(一部分) ©Andy Holden

こちらは映像のレクチャーに使われていた鳥の巣の展示の一部。巣は博物館から借りてきたものを交え、実は多くはアンディがスタジオで制作したレプリカだったり…。この階の展示は鳥の巣作りの歴史を語った“A Natural History of Nest Building, 2017"。


How the artist came to the study of nature, 2017 ©Andy Holden

地下へ向かいます。ずらりと並ぶのは卵、卵、鳥の卵!と叫びたくなるその数は何と七千百三十個。地下は “A Social History of Egg Collecting、2017"と野鳥の卵収集に焦点を当てた展示。 その昔、野鳥の卵を採取し、収集するという行為は鳥類学の研究にとって欠かせないものでした。多くの収集家が鳥類学の進展に貢献したと言っても過言ではありません。また英国において1920-30年代には趣味としての卵収集がブームとなり、アマチュア向けの本や雑誌も出版されたほど。一方、その研究によって英国の鳥の生態が明らかになるにつれ、その数の急激な減少のみならず絶滅の危機にある種さえ存在するというその現状も明らかになっていきます。そして、ついに1954年にはその趣味は非合法となります。しかし、その後も犯罪者になるというリスクを犯す収集家は後を絶ちません。上記の卵はそんな収集家の一人のRichard Pearsonの住宅で2006年に押収されたものを再現した陶製のレプリカ。押収された卵の中にはミサゴやイヌワシなどの保護鳥の卵も含まれていました。集めた卵が博物館入りし、“ミュージーアムピース"になるのは収集家の夢。そんな収集家の夢を打ち砕くために押収された卵はその後全てRSPB(王立鳥類保護協会)によって破壊されたのです。

The opposite of Time, 2017 (30分)の一場面。アニメーションのカラスが留まっているのはポール・ナッシュの絵画。右下に映し出されている本はRachel CarsonのSilent Spring(沈黙の春1962)。農村において野鳥の卵が薄くなり、雛が孵る前に割れてしまう現象が農薬の乱用によることであることを暴き環境問題告発本の先駆けとして当時ベストセラーになった。©Andy Holden

一羽のカラスが、ターナー、ナッシュ、ホックニーなどの英国著名画家達の絵画を背景に、野鳥の卵収集家の歴史の語り部として飛び回ります。映像では時代に逆行する収集家達の様々なケースが語られ、どのエピソードも実に興味深いのですがここでは一つだけ紹介します。野鳥卵の収集家が尊重されていた小さなヨークシャーの村で育ったColin Watsonは子供の頃から野鳥の卵の収集をしていました。ワトソンは6度の逮捕歴があり、常に私服警官に付きまとわれながらも卵採集/収集を続けました。1985年には二千個の卵を押収され、自然保護区のミサゴの巣のある木を切り倒した人物としても知られています。ところが2006年、いつものように息子を連れ、保護鳥の巣のある12メートルのカラマツに登っていたワトソンは、足を滑らせ帰らぬ人となります。ワトソンの死は多く紙面を飾りました。実は野鳥の卵収集家は、ほぼ100%男性だそうです。膨大な知識を必要とし、身体的にも非常に危険を伴う野鳥の卵採集/収集に、何がそこまで男達を駆り立てるのでしょうか。因みにRSPBは1889年に女性の鳥類保護活動家達によって設立されたのが始まりだったりします。

会場は、元々カミング親子(父と息子)が個人博物館として建てた建物を利用。まさに小さな博物館を訪れたような不思議な感覚に襲われる展示でした。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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