映像2017.09.27

会えない頃に戻りたい

とりとめないわ 第25話
とりとめないわ 門田陽

お彼岸の日、朝10時。近所のローソンで落語のチケットが取れずにうなだれていると、突然店内のBGMで戸川純の「レーダーマン」が流れました。♪疑似ロボット高性能識別不可能レーダーマ~~~~ン!です。(スミマセン、ほとんどの人には意味不明ですよね) 久々に聞いたけど、いまだに強烈な曲です。

1984年の夏。地元福岡で大学生だった僕は戸川純(当時のバンド名は「戸川純とヤプーズ」)のライブのチケットを求めて徹夜でプレイガイドに並んでいました。今思えば、なぜそんなに気が合ったのかふしぎなくらい頻繁に会っては飲んでいた男女7人でよく遊びました。よく並びました。コンビニもスマホもない時代。遅くまで開いていたダイエーでビールやおつまみを準備して、ラジカセでオールナイトニッポンや各自持参のお気に入りの曲を入れたカセットテープを聞きながら朝までよく喋ったものです。毎日のように誰かの部屋に集まっては1泊2日500円で借りてきた新作映画のVHSを見ながら自分達も1泊2日で朝まで話に夢中でした。

何をそんなに話していたのか。いくつか覚えています。
その一。「福一(ふくいち)ラーメンの替え玉が10円上がるらしかよ」「えっ、いつからですか?」「あ、聞くと忘れた」「ちょっと、バイクで店まで行って聞いてきてくださいよ」「わかった、行ってくるよ」
みんなが集まるのは一学年先輩の清原さんの部屋か同じく先輩の奥村さんの部屋でした。
奥村さんはいつもスクーターで出かけては街で見た話をしてくれました。そして奥村さんは何かと新しもの好きでバイト代が出ると電化製品を買って僕たち後輩がそれに先に触れたり使ったりするのをよく怒ってました。

その二。「奥村さんが留守番電話を買ったらしいよ」「何それ?」「最近流行りのたい」「留守番電話?」「奥村さんの話じゃ、持っといたほうが就職に有利げな」「どうして?」「いや、わからんけど有利らしい」「じゃ、奥村さんちに見に行こうか」「うん、行こう」
初めて生で見た留守番電話はファミコンやビデオデッキほど魅力的ではなく、これのどこが就職に有利なのか全くわかりませんでした。

その三。「お前たち、関門橋の色を知っとう?」「赤じゃないとですか」「赤は若戸大橋。関門橋は微妙な色」「どげな色ですか?」「見に行こうか」「奥村さん、今夜中ですよ」「今出たら朝日が見れるよ」「行きますか」
この日僕たちは僕と佐々木くんが運転する車二台(ホンダのシティと日産のカローラ2)に分かれて関門橋に行きました。あの日あの朝、関門橋のすぐそばの公衆電話のボックスに7人で入ってカメラをオートにして記念撮影をしたはずです。あのときの写真、見たいなぁ。

さて、あれから33年。もしいま僕たちが大学生だったらどうなっていたでしょうか。
友達になっていたでしょうか。ラーメン屋さんの情報も、新しい電化製品がどんなものかも、関門橋の画像なんてその場であっという間にわかります。あれこれ意見を言う前に解決することばかりです。ふだんの仕事でも私生活でも便利すぎるスマホやネットで、ほとんどの調べものは体を動かさずに済みます。現地に見に行ったり、図書館や大型書店や古本屋を回ったりすることは極端に減りました。それでも僕はなるべく自分の目で見たいと思うのです。自分の足で確かめたいと思うのです。どちらかのカン違いで会えなかった待ち合わせ場所や、急にお腹が痛くなって遅れることになったけど、伝える手段がなかったデートとかもそれを含めてのいい思い出や悪い思い出だったりします。それが僕たちの日々の醍醐味でした。何でも便利で個人の情報がしっかり管理され時間にムダのない現在。それを否定する気はさらさらないですが、なにか大きな落とし穴にはまりそうで心配です。 会えない頃にはもう戻れないけど、あの頃の気持ちや感覚は忘れないようにしたいなと思っています。

ところで、家に戻って本棚の奥を探したらあの頃の雑誌やVHSがいくつか見つかりました(※写真)。その中の月間MOGAの1986年8月号にコピーライターの特集記事があって、そこに「これからのコピーライターには留守電とFAXは必須アイテム!」と書かれている(笑)話はまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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