映像2015.12.24

アマゾンの中心で、何かを叫ぶ

とりとめないわ 第4話
とりとめないわ 門田陽

アマゾンに来ています。巨大な倉庫ではなく、リアルな南米のアマゾンです。仕事です。 もう少し詳しく言うと、エクアドルのマカスという小さな町からさらに奥のジャングルに入ったケンクイム村という所にいます。成田から空路陸路揺れに揺られてマカスまで30時間。そこで長靴に履きかえ、泥道を30分歩き全身から汗がふき出し膝が笑う頃にようやく着きました。当地を外国人が訪ねるのは初めてだそうです。子ども達が好奇な目で出迎えてくれました。村からは歓迎の意味で顔にねずみ男のようなペイントを施してもらいました。テーマパークに来たと思えばいいや、とは思いにくいヘロヘロな体調でして、スマホで撮ってもらった自分の顔を見て、ゲッとつぶやきました。さかなクンなら、間違いなくギョギョと声をあげてます。2年前なら、じぇじぇじぇとみんな叫んだはずです。そしてこれから5日間、マカスのコテッジ(電気は来てるけどテレビやエアコンはない)を基地にして毎日ジャングルに通います。

エクアドルには富士山に似た山がいくつかあります。マカスへの道中で間近に見たサンガイ山(標高5410m)や遠くに見えたコトパクシ山(5897m)はどちらも瓜ふたつと言っても過言ではありません。現地のガイドさんの言葉によると、「左手に見えますコトパクシ山はエクアドルの富士山と呼ばれ、標高は・・・」なのだそうです。はい!?エクアドルの富士山って、誰が呼んでいるの?地元の人は絶対呼ばないよね。日本人独特の妙な表現です。これが逆だと、すぐにヘンだとわかります。エクアドルの人が日本に来て、「あちらに見えます富士山は日本のコトパクシ山と呼ばれ・・・」だもんね。言わない言わない、そんなこと言わない。日本人はこの手のたとえが好きな人種。和製プレスリー、和製マラドーナ、和製タイソン、そんな呼ばれ方をした人達がいました。いまや和製イチロー、和製ダルビッシュ、和製マツコ・デラックスなんちゃって。(なんちゃって、って30年ぶりくらいに使ったなぁ)

さておき、世界はどこもよく似たものでできているのかもしれません。人間のやることなんて大差ないです。この村の子ども達はDSもPSPも持ってないけど、よく遊びまたよく遊びます。高い橋からは川に飛び込むのを競い、河原では石を投げて水切りをします。僕も久々に石を投げました。気分は小6だったのですが、50肩が堪えます。「平たい石のほうがうまくいく!」と日本でもよく知られていることを言われ、さも初めて聞くような顔でうなずいたりしました。ウソつきなオッさんでゴメン。舗装されていない道を土埃をあげて子ども達は駆けていきます。どういうわけか懐かしい気持ちです。どこか昔の日本の景色を見た気がしました。フシギです。

スゥリが生まれ育ったエクアドルの村に日本人なる男達がやって来たのがいつだったのか。スゥリはよく覚えている。なぜならその1週間後がクリスマスでスゥリは憂鬱でたまらなかったからだ。クリスマスの日は彼女の10歳の誕生日でもあるのにだ。スゥリはまだ生まれて一度もこの村の外に出たことがない。しかし外の世界がキラキラ光って思えて仕方なかった。スゥリには彼女を生んだ母親(年に数度やって来る父の第三の妻)と10歳上の兄がいた。兄のリカルドは3年前に村を出て200キロ離れたテナの町のカモーテ(さつま芋)畑で働いている。クリスマスが来る唯一の救いはリカルドが家に帰ってくることだ。リカルドはスゥリの気持ちがわかってくれる。この村では、女は12歳になると結婚することを求められる。スゥリはその前に何とかして村を抜け出そうと考えていた。あの日から10年、スゥリは東京で二十歳のクリスマスを迎えようとしている。

真夜中、天井だけはやたら高いが何もないマカスの部屋で、こんな話を妄想していると外から聞いたことのない鳥や虫や獣の鳴き声が聞こえてきます。あー、僕は今、アマゾンに来ています。

さてさて、アマゾン滞在中はきれいな空をずいぶんと見ました。夜の空は星だらけです。流れ星も沢山見ました。流れ星に願い事をする慣習はエクアドルにもあるそうです。ただ、願い事はひとつだけしかダメと言われました。 「生まれ変わったらブラジャーになりたい!」 中学時代、本気で思ってました。

ところで先日、酔った勢いで夜中にパソコンをポチッとやって、翌日アマゾンから付箋が一箱(なぜ付箋なのか今でも不明)届いた話はまたの機会に。(※現在、付箋を売るほど持ってます。苦笑)

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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