板挟み商売

番長プロデューサーの世直しコラムVol.104
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

どんな仕事でも、仕事の一番難しいところは「板挟み」の状況になる事ですね。

CMプロデューサーをやっていると、本当にいろんな板挟みにあって ぺっちゃんこになるんじゃないか?というくらい圧迫されるものです。

何にそんなに挟まれるか?平たく言うと「予算とクオリティ」ですね。昔みたいにおおらかな時代じゃなくなって、いろんな事がガラス張りのなかでCMを制作する環境になりました。当然、予算も厳しくなりました。どんぶり勘定も御法度になった昨今。仕事をいっぱいまわしているプロデューサーにもアドバンテージはなくなりました。

CMプロデューサーは、発注主である広告代理店のクリエイティブの人の希望を満足させてあげられないと、次の仕事の発注がもらえません。だから、一生懸命希望をかなえようとする。どんな仕事でも、発注主の満足、が一番の目標だからです。 しかし、その仕事の予算の話をするのは、広告代理店の営業の部門で、同じチームで動いていますが、同じ人ではなかったりします。同じ方向を向いていても、大切にしている事が立場によって少しずつ違うものです。

企画を立てている段階で、クリエイティブのチームから、ああしたい、こうしたい、と面白い事がどんどん出てきます。営業チームからは、これくらいの予算です、という予算感が伝わってくる。どんどん出てくるアイデアほど予算はどんどん増えたりはしないです。当たり前ですが。んー。できるかな?という事になる。

ただ企画を立てている段階で、それはできません、あれはできません、なんて口に出すと、企画がどんどんしぼんで行くので、どっちらけのプロデューサーになってしまいます。家のリフォーム屋みたいにあれはできません、これは無理です、と平気で言ってみたい気もするが絶対言えねえ。 突拍子もなく予算にはまらない様な企画は、みんなプロなので、あまり提案しないものですが、出てきたら黙って首を横に振るしかない。欲しいものは自分の持っているお金より、いつも、チョッとだけ高いのが現実。

実際、できるかもしれないしできないかもしれない。やってみないとわからない事も多い。だからどうやったらできるかやり方を考える。昨日までできなかった事が今日できるようになってるかもしれない。新しい技術はないのか?あの人に頼むとできる。この会社とやればできる。そういうネタを一生懸命探して回るものです。プロデューサーとしての引き出しを一杯もっていないといけないし、増やさなきゃいけない。

その時の、手法やスタッフィングに関してまかされている事に説得力がないと、「こうやればできますよ」と、一生懸命考えてきた事でも簡単に却下されてしまう。「そんなんじゃだめだよ」って。できればいいってものじゃないからだ。うまくできないといけない。 見積もりを書いて値ごろ感があわないと「話になりませんな、この企画の提案やめましょう」見積もり方によっては名案を殺す事もある。恨みが残る。

とにかく、クリエイティブチームの要望と営業チームの要望を両方かなえて、しかも所属する会社に利益を出す。これがすごく難しい。

企画が決まると、直接表現を構築してくれるスタッフが参加してくれる事になる。演出家やカメラマン、ライトマン、美術という様な人たち。 演出家は、その企画にそって、表現をより面白くするのが仕事なので、またいろんなアイデアをお持ちになっているものだ。 優秀な演出家はお友達も優秀な人が多く、優秀なお友達のスタッフは売れっ子が多いのでそれなりに値段も高い。 そして優秀な人は、とにかくいいものを作らないといけないという気概の人たちで、何かを決める時も選択肢を多く欲しがるし、迷うので、表現に表れる以上の労力をかける。その姿には本当に頭が下がるのだけれど、その分、お金と時間がかかるのだ。絶対。

先日、あるクリエイティブの方から言われた事がある。 「2倍優秀なスタッフを連れてこないと、2倍時間がかかって2倍残念な結果になる」と。 そういうものだから、優秀なクリエイティブは優秀なスタッフを求める。絶対。

こんなもんでいいですよ。という適当な事でいい仕事にできる人はいないのである。それはよくわかる。

プロデューサーだって、せっかくお呼びがかかったのだから、少しでも面白いものを作って返したい。俺がやったんだと威張りたい。賞を取ったりしたい。優秀な演出家がやると言ってくれたのなら、その演出家のやりたい事をやらせてあげられないと、その人を選んだ意味がない。

その反面、仕事でやっている事に利益が出ないとそれは仕事ではない。プロデューサー会議で赤字出したプロデューサーがどれだけ会社から責められるか見せてやりたいぜ。と思う時もある。「こんなにやって赤字なら、お前、寝てた方が儲かるんじゃないの?仕事しないで寝ててくれない?頼むから」って感じである。ひどいでしょ?いっぱいもうけても給料はいっぱいは増えないが、損するとあっという間に給料が減る。不思議な現象が起きる。会社員とはそういうものだ。その程度で済むという考え方もあるが、針のむしろになる事は間違いない。長期的な展望で見守ってもらいたいけれど経営者は事情を聞きたがらない。

僕らプロデューサーは、やりたい事とやらなければならない事が相反している。だから板挟みにあうのだ。

そんなこんなで、若いプロデューサー達がすごく苦労しているのをよく見かけるようになったし、悩みも深くなってきたみたい。おっちゃんプロデューサーに相談も多くなってきました。「どうしたらいいでしょうか?」と。

とにかく、どうなったら最悪か?というイメージを持ってほしい。と思う。 いろいろ経験してきたので、しくじり先生の様な気分である。

みんなにいい顔して、誰かが怒りだすのを恐れて、言わなきゃいけない事を言えないで、へらへらして、仕切れず、問題を放置して悪化させ、何かが発覚して、結局誰かが怒ったり、敵対したり、誰かが悪者になったり、そんな事がおきないようにしなければならない。そうなったら中途半端なクオリティの作品が上がり、利益も出ず、誰かに恨まれた挙げ句、次をやらせてもらえない。あいつはダメだ、というレッテルを貼られてしまう。

まず、やらなければいけない事は、プロデューサーは、自分が問題を解決しないと誰も解決してくれないと認識する事。感情と事実は分けて考える事。心の中から漠然とした恐怖を追い出す事だ。そしてその仕事の中での自分の最優先事項を決めなければいけない。そして、各部署の立場の違う人たちの大事にしている事は何かを徹底的に知らなければいけない。 他の人の価値と、自分の大事にしなければいけないと思う事とのギャップを埋めるべく、ものすごい熱量で、どうなって行くのか予測して前倒しに対処しなければピンチは切り抜けられない。

本気で切羽詰まった人の言う事しか誰も聞いてくれないからだ。

演出家の書いたコンテの、見え方は同じで、コストのかからないやり方は本当に他にないのか考えなくてはいけないし、スタッフ全員に相談しなければならない。スタッフ打合せを組み直したり、パートごとに個別に会いに行って話をしたり、とにかく手間をかけないと不利な状況からは脱却できないでしょう。そして「本当に申し訳ない、頼みます」と相手をねぎらい続けなければいけないのです。一斉にメールを送りつけたからって、自分の思いは空を切るだけで伝わらないし無視される。

自分の一番大事な事を決めて、成り行きに任せたりせず、関わる相手の事を考えて、おろおろせずに、本気でなんとかしようと必死になる。そうやっていかないと、言いにくい事を、いいタイミングで、説得力を持って、はっきり言えるような人にはなれないので苦労する事になる。成り行きに任せて対処せず、自分の都合のいい事ばかり言っていると馬鹿だと思われるからだ。

結局、板挟みにあって、苦しんで、でも結果的に一本の仕事を終わらせ感謝されるためには、一流のクリエイターやディレクターが放出している熱量と同じ熱量以上で繊細に、冷静に、大胆に対処しないとどうにもならないという事だと思うのです。その根性のないプロデューサーは、ただの飲み友達の扱いにしかならないみたいである。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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