古都

ミニ・シネマ・パラダイスVol.26
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

TSUTAYAにいくと新作がズラリ。 準新作もズラリ。 映画業界は不況不況といわれつつも、レンタルになる映画だけでも、月単位でいっぱいあるんだなーと、感じます。そんな新作がどんどん出ていくのだから、旧作なんてどんどん埋れていってしまうし、探したり、調べるほうも大変です。 そもそもTSUTAYAで探しているDVDを見つけるのも一苦労。 目的の棚にいったら「特集スペースにあります」とか、あるあるネタ・・・。 でもそう言った特集を企画してくれるから、埋れて出会えないかもしれない映画に出会えるのだと、今回感じました。

シネマヴェーラ渋谷は、渋谷・ユーロスペースの1階上にあります。 そこで特集をされていたのが、「中村登」監督。 なんかスッキリしたお名前ですが、ぜんぜん知りませんでして。ただ、シネマヴェーラの公式サイトでは、「蘇る中村登」、「ベルリン、ヴェネチアで再評価」と謳っていて、 しかも全24作品を1ヶ月で上映しようという充実っぷりでした。気になる、という一心で前情報なしに突撃し、今は感動に震えています(笑)

映画の冒頭3分くらいで、「あー。もう絶対面白い」となり、観終わったころにはなんとも言えない幸福感でした。観た作品は、「古都」、1963年作品。1913年生まれの監督50歳の時の作品です。こちらは米アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされたそう。

あーもう絶対面白い、の冒頭3分は当時の京都の町並みを俯瞰した映像から始まります。 上から俯瞰した町屋の眺めはぎっしりとどこまでも灰色の瓦が続き、とても無機質。 寺の鐘を鳴らしたような音が加わった低い音楽とともに、屋根瓦、窓の格子など、町並みの中にある幾何学的(人工的な)で無機質な部分をアップショットで差し込んできます。

京都の町並みが、どこかひっそりとした怖さ、寂しさ、恐ろしさを持っているように、なんともいえない不思議な感情がふつふつと沸き起こります。 タイトルロールが終わり、その町並みの一角、昔ながらの呉服問屋で、ぼやきながら帯の下絵を書く父のもとへ、美しい一人娘が耳障りのよい京都弁で声をかけ・・・。

原作は川端康成の「古都」。 捨て子でありながら、京都の老舗呉服問屋の一人娘として育った20歳の千重子は、美しく誰から見ても幸せそうなお嬢さん。父母に愛されて育ち、幸福ではあるが、心のどこかでそれが引っかかってる。そんな気持ちが巡っているころに、山村で杉を切る仕事をしている、自分にそっくりな顔をもった女性・苗子に出会う。 生き別れた双子であることを察したふたりは戸惑いつつも、惹かれあっていきます。 そんな数奇な二人の人生を、千重子の住む京都の町並み、杉の山で暮らす苗子を通して、四季折々の京都の美しい情景とともに映し出して行きます。

影の陰影が強いライティングで、千重子と苗子(岩下志麻が二役)の顔や、京都の町並み、祇園祭、杉の山々が美しく切り取られています。そういった古典的とも芸術的ともいえる映画手法をたっぷりと味わえつつも、岩下志麻の演技を通して、千重子と苗子の複雑で切実な心理をとらえ、また、現代的な人情味を感じる人物や、メロドラマ的な要素もあり、広く受け入れられるべき、なんとも贅沢な一本です。

映画館は当時これを観たであろう高齢の方から、若い女性まで、半分以上埋まっていました。 24作品を1ヶ月でやる、のは、どの作品も惜しみなく良作で観てほしい、ということなのかもしれません。行ける時間によってどの作品を観れるかは限られますが、思い出の一作になるかもしれません、ぜひ一度、足を運んでみる価値ありです!

◆甦る中村登 2014/08/16 ~ 2014/09/12 シネマヴェーラ渋谷 http://www.cinemavera.com

koto

監督:中村登
公開:1963年1月13日
上映時間:105分
製作国:日本
キャスト:岩下志麻、宮口精二、中村芳子

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

続きを読む
TOP