疎外感というか孤独感というか

番長プロデューサーの世直しコラムVol.87
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

きっかけは、仲良しのスタイリストさんがFacebookに書き込んでいた 「子供の頃は周期的に疎外感に襲われた。今でも人から疎外されていると感じると苦しくなる」 という文章でした。

疎外感?ん?ん? と、自分の中で何かがはじけて、その事が気になって気になって仕方なくなりました。 この言葉の中に、子供の頃からなんとなく自分でも感じていて、考えたら辛くなるから考えないようにしておこうと思っていた感じがあって、具体的に説明のつかない、腑に落ちない概念だったからだと思います。

また、Facebookやツイッターを見ていると、いろんな人の現状が手に取るようにわかって楽しい反面、何となく疎外感を感じて寂しくなる事もあります。他人の「リア充」振りを見て、軽く嫉妬やねたみの感情が湧くからだと思うのです。それに対抗すべく、自分の身の回りに起きた、他人が見て羨ましいだろうなぁという出来事を、一生懸命Facebookに書こうとしているのも事実。書いている途中に虚しくなる時があります。 そんなFacebookに堂々と書かれていた「疎外感に襲われる」という文章が逆説的でショッキングだったからかもしれません。

そもそも疎外感ってなんなんだ? 調べてみると、ネット上でもいろんな人が悩んでいて、いろんなカウンセリングがなされていました。調べれば調べるほど、あまりにもこのテーマは大きくて深く、難しい問題でもありました。

「疎外感」 どうしても自分と人との間に距離がある。と感じてしまう寂しい感情。

子供の頃からたまに感じている感情。「なんだかわからんけど、寂しくて不安。みんな楽しそうなのに、なんで俺だけこんなそわそわした気持ちで暮らしているんだろう?」他の人と仲良くしたい自分と、他の人とは違った事ができる人間でありたいと思う自分。 特に訳の分かっていない子供の頃に、そんな事を強く感じたのかもしれません。それが大人になって、社会のルールやヒエラルキーや仕組みが解ってきて、仕事に忙殺されている時はわいてこないけれど、未だに、ふとした瞬間にボワッと出てきて、感情が不安定になる時がある。みんなに相手にされていない様な気分。

鬱病やいじめや引きこもりやストーカーは、この感情にうまく折り合いをつけられなかった人の「挙句の果て」の状態なのかもしれません。多分この「疎外感」が、人生における諸悪の根源なんじゃないか?とも思うようになってきました。大嫌いな気分。

逆に、異性にもてたいとか、誰かにほめられたいとか、賞をもらいたいとか、そういう感情は、この「疎外感」から逃れるためにある種の「心的報酬」を求めている姿かもしれません。ポジティブな意味でのモチベーションになっている場合もあります。

いろいろ考えて行くと、この「疎外感」は『他人が実際に自分の事を疎外している』という訳ではなくて、『自分の中の問題や憂鬱を自分以外の物に、勝手に投影して、それが跳ね返って物悲しく見えている感覚』じゃないかと思うのです。 例えば、よく晴れた気持ちのいい青空でも、自分の中に辛いことを抱えているときは気持ちよく感じられない、逆に物悲しい風景に見えてしまう事があります。そんな感じ。

「自分が抱えている問題は他人には理解してもらえない」と、自分から距離を置こうとしている反面、「誰か助けてくれ」とも思っている。だから、無意識のうちに、距離を置きたい気持ちを他人に投影して、その事について何とも思っていない他人から疎外されているような気分になる。それが「疎外感」の正体なんじゃないか。

という事は、この辛さは、勝手な自分の思い込みなんじゃないのか?

そういうことを一瞬でも忘れるために、エンターテイメント、映画や音楽や小説があるんだろうし、「酒と泪と男と女」の歌詞にでてくる「どうしようもない寂しさ」に包まれた時に、酔いつぶれて眠るまで酒を飲むのでしょう。

 難しすぎてなんだかわかりませんが、はっきりしている事は、多かれ少なかれ疎外感を感じて暮らしているのは自分だけではないという事です。 家族、会社、社会、学校、人の集まる所では、自分には不都合な、訳の分からない事を強要される事もあるし、めちゃくちゃ怒られる事がある。人の悪意や欲が交錯する事が多い。 自堕落で無神経に暮らして行ければそういうことも感じなくなるかもしれませんが、真面目にセンシティブに暮らせば暮らすほど、その疎外感や孤独感や閉塞感をひしひしと感じて寂しくなる世の中ですね。 生きて行くという事に対しての未来への不安の無い人なんか一人も居ないのです。

 理由や原因のわかる寂しさなら対処法もありますが、そうじゃない寂しさに対しては、ただただ自分次第であるという事です。考え方一つで楽にもなるし、苦しくもなる。つまり、他人は楽しく見えて、なんで俺だけいつもこうなるんだ?というのは一種の妄想なんだから、ぶるんと頭を降って、「だからどうした?」と平気に戻る事が大事ですね。 疎外感を感じているのはいろんな局面において自分だけでは無いという事を理解して、飲み込まなければいけない。嘆いていないで目の前の問題を解決する事に尽力すべきでしょう。

「誰かにわかってもらいたい」と願う気持ちに、自分ですら向き合えていないのに、それを誰かが解ってくれるはずが無いじゃないか。という開き直りも多少は必要なのかもしれませんし。世界中を敵に回す勇気があれば一番いいんですが。

それを理解し合えた人同士のつながりというのが、とっても素敵な人間関係を生むのではなかろうかと思う訳です。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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