なんかあったらどうするんだ

Vol.190
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

陸上の為末選手がネットに発表した文章に

私たちの国は「なにかあったらどうするんだ症候群」にかかっている。

というのがあります。

 

簡単に言うと、いくら調べてもわからない未来を予測できると言う前提で

失敗するかもしれねえと言う意味を含んだ「挑戦」をしなくなっている。

 

予想した通りに行くことをやるのは実行であって挑戦ではない。

「なんかあったらどうするんだ?」という気分は一人一人の心配や恐怖が

社会を停滞させている。

だから「わからない」「怖い」から「だから面白い」に気分をシフトしないと

社会はよくならない。と書いてあります。

 

びびりました。ここのコラムでもそう言うことをはっきりとわかりやすく

言いたいと思ってうじうじ書いてきましたが、ここまで簡単に

言い当てられると、これだよ!と

永ちゃんの歌を聞いているときのように高揚するもんです。

 

確かに、バブルの直後に社会人になった自分を省みると、いろんな市場が

どんどん縮小していっているのがわかります。いろんな要因があるでしょう。

 

テレビCMの制作費も、国内のスタジオでタレントを撮影して、30,

15秒を作って製作費は3000万円と言うのが相場だったと思います。

今はその半分でもあればいい方です。

あくまでも自分の立場の変化と僕の肌感でしかありませんが。

 

社会全体も「貧すれば鈍する」とはよく言ったもので、昔の豊かさを取り戻そうとおもって

底無し沼にはまったまま手足をバタバタさせているうちにもう首まで沈んできちゃった。

と言う感じになってきましたね。

 

昨今の円安は結構洒落にならないんじゃないかと思ってみています。

アメリカと日本の考え方が違うんだなあということを感じるからです。

 

専門家じゃないからちゃんとはわかってはいませんが、調べていくと

アメリカは量的緩和から量的引き締めにシフトして出回っているドルを回収しようと

しています。日本はマイナス金利をやめようとはしていません。アメリカの金利が高く

日本の金利がゼロだとすると、市場でドルが出回らず、円が市場に大量に出回ったまま

になります。いっぱいあるものは安い。簡単に言うと円安はここから始まっているそうです。

 

日本は基軸通貨国ではないので、資材の輸入には大量のドルを用意しなければいけません。工業製品の輸出も昔ほど行われていないので

そのドルの稼ぎも少ない。持っているドルも減っていくし、金利の差で融資を受けたとしても損をする。八方塞がりです。欲しい時にドルを

調達できる。という当たり前だったことができなくなる。

これは、もう君たちは重要な経済国じゃなくなったんだよ。と言われているのに等しい。

 

専門的なことはよくわかっていませんが、なんというか気持ちで感じることは

アメリカは、「集団の成功」から「個人の幸福」に考え方が動いていること。

経済も政治もそれを基本的な変化として動いている。

日本はいまだに「集団の成功」を追い求めている。そう言うところが根本的に

問題が解決されないんじゃないかと思うのです。

 

世界のランキングで見ても評価項目の「企業の俊敏性」と「国際経験」の項目が

63位。つまり調査国中最下位だそうですよ。

動きが鈍く世界で何が起きているのかに疎い、のが日本の企業ということになります。

世界の大学のランキングでも東京大学は35位。早稲田大学は205位。だそうです。

何を基準にどこをどう調べているかわかりませんけどね。

 

大切なのは国や組織ではなく個人です。そのことをちゃんと受け入れて考え方を

変えていかないと、なんだか消えて無くなりそうな日本になってきました。

こう言うことを書くとまた激怒してひどいメールを送りつけてくる人もいるんですが

事実しか書いていません。自分の所属先が心配で仕方ないんです。

 

そして、そうなってくると、冒頭に書いた「なにかあったらどうするんだ症候群」は

日本の社会に蔓延してしまうことになるんでしょう。失敗するかもしれないことに

挑戦する、投資する余裕はないと言うことです。

 

「集団の成功」を目指し「なにかあったらどうするんだ症候群」が蔓延してしまうと

真面目であることだけが美徳となり「雑談も冗談もご法度」と言う社会になる。

今の日本はまさにそう。

僕は冗談ばっかり言って暮らしているけど、ここ5年くらい、嫌な顔をされることが

多くなってきましたね。言ってることが変なだけかもしれませんが。

ユーモアがないといい仕事ができない。と思っているんですけど、特にCMを作る

とか動画を作ると言うところは。そう言うところにも「ふざけないでください」という

空気が蔓延していることを強く感じます。適当な冗談とユーモアの区別がつかないのだ。

笑っちゃダメ、に等しい。だめだよそんなことじゃ。と思います。

 

やだやだ。なんか帝国軍に支配された世の中、みたい。

真面目なストームトルーパーがうようよ街中にいる感じか?

なんか息苦しい正体はここにあるのかもしれません。

 

「なんかあったらどうするんだよ?」という上司と「やってみなはれ」と言う上司。

やっぱり随分変わってしまったんでしょう。

 

とりあえず、なんかあったら、の「なんか」は何なのか?

そこを具体的なリスクとして分析して予測して、なんかの正体は克服できるのか

できないのか検討して前向きに挑戦するということをやっていきたいものです。

ただ漠然と闇を怖がり、今の地位に傷をつけたくないやつの犠牲に若者をしてはいけない。

と思うのです。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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