東京オリンピック・パラリンピック開催決定

番長プロデューサーの世直しコラムVol.81
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

夜更けに、やっぱり気になって眠れずに、アルゼンチンからIOC総会の生中継を全部見てしまいました。東京にオリンピックが来るか来ないかの瀬戸際だったからです。 僕は、東京でオリンピックが開催される事が決定したのは、よかったと思います。

オリンピックの招致活動に使われたプレゼン映像やスポーツメーカーのCMは、ほとんどの物が同業者のテレビコマーシャル関係者が制作している物です。自分自身は全く、どれとも絡めなかったけれど、いろんな知り合いのスタッフは、(映像がなんだか興味の無い、判断できないお役所相手に)本当に苦しみながら一生懸命作っていました。不本意だった事も多々あると思います。そういう話を見たり聞いたりしていたので、本当に、東京にオリンピックが決まればいいなあと思っていました。

そういう観点から、ご尽力された方々には「本当におつかれさまでした」と言いたいと思います。

ネットを見ていると、 「相当金をばらまいたんだろう。」とか、 「あれだけ立派な選手村を作るんだったら、被災地で仮設住宅に住んでる人たちにもあれだけ立派な住居を作るべきだ。」とか、 「首相がプレゼンで大嘘ついたんだけど、あれはありなのか?」とか、 「ああ言ってしまったら、汚染水の問題なんかをますます隠蔽するようになるんじゃないか?」とか、 「秘密保全法案が成立しようとしてるけど大丈夫か?」とか、 「国の借金が1000兆円あるんだけどできるのか?」とか、 「最近のオリンピックは経済的に失敗する事が多い。」とか・・・ いろんな事が心配されていますね。

一つ一つ見ていても、自分でも心配になる事ばっかりで「うひゃー、一筋縄ではいかないのね~」と思っちゃうんですけどね。 いろいろ問題はあるんだなあ。

もちろん、問題はありますし、それに一つ一つ対応して行かなければいけないのですが、一つだけ言える事は“オリンピックが東京に決まってよかった”という事です。オリンピックの開催っていう事実は「明るくしなければいけない未来」だからです。

僕の2020年は7年後なので52歳です。当然出場できる競技はありませんし、聖火ランナー以外の参加の仕方が思いつかないのですが、出場できる若い人たちがものすごく羨ましいです。なんせオリンピック出場のための地域予選がありませんから。日本代表になるのが難しいかもしれませんが、代表になれば全ての競技でオリンピック選手になれます。ちなみに自分でやっているスポーツ、バスケットボール男子はもう何大会も、アジアで勝てずに本戦出場が果たせていません。チャンスなのです。

そういう意味で、7年後のオリンピックは今の若い人たちの物です。僕たち大人は、そのお膳立てをちゃんとやって、若い人たちが思いっきり能力を発揮できる場を作ってあげる事が仕事になります。未来は僕らにも現実だけど、東京オリンピックは若者達の大きな現実だからですね。

会社などで「ドーハ組」と馬鹿にされている、昭和40年代生まれの僕たちは、オリンピックの頃に、まさに社会の矢面に立っていなければならない世代です。だから、僕らにとってもオリンピックはチャンスですね。オリンピックがなかったら、駄目人間の集まりの世代として歴史に汚点を残していた世代になっていたかもしれません。戦後の復興をした世代の遺産を食いつぶし、バブルに浮かれ、経済を破綻させ、放射能汚染された水を海に垂れ流しても打つ手が無く、先人達が作った間違ったレールの上だけを進み、古くなった枠から出られない人たち。

社会の構造がこれだけ変化したいと悲鳴を上げている中で、てめえの利益だけを考えて、あと五年で引退する様なじい様たちに握られている“なにか”をひっぺがす最大のチャンスが来たんだと思います。「しかたないですね。オリンピックですから」って言って。だからアイディアを出さなければいけません。これまであった産業の構造を変えてしまう様なアイディアを。

iPodが音楽産業の考え方をひっくり返しちゃった様なアイディアですよ。 なんなら、イスカンダルまで放射能除去装置をとりに行くように、躍起になって開発する。そういう技術を作るとか、それに金を出すとか、そういうことが技術大国日本でオリンピックを開催する意味なんじゃないでしょうか。

インフラや技術の進歩で、もう実現可能なことでも、既得権益者の反対にあって実現していない事もかなりあります。CM業界にもある。それをひっぺがすチャンスです。いろんな職種の人たちが暖めてきたアイディアを試すときじゃないでしょうか? そうやっていろんな事を便利に、スピードをあげて、コストのかからないように変えて行く。そもそも技術の進化とは、いままで難しかった事が、お金と時間をかけずにできるようになる。という意味なんだから、技術の進化を取り入れて新しい世の中を作る。そういう事に尽力するのが大人の役目であって、何かにしがみついて引退を待ったり、思いついた文句ばっかり言ってるのが正しい訳ではないと思うのです。

そう考えて行くと、将来の不安や問題点よりも今の利益を優先させることを国としてやめなければいけない。国益は国家の最優先事項だとしても、100年先に国境なんかがなくなる社会が来るとした未来を、世界共通の了解だとして事を先に進めるには、海に放射能を垂れ流してる場合でもないし、戦争できる法律に変えてアメリカのご機嫌をうかがうより、考える事は変わってくると思うのです。困難の解決は民間がやる事であって、国はそれを邪魔しない事ですね。実はずっとそうやってきたんですよ。歴史を見ると。

だから、あれやってくんない、これやってくんないとダラダラ文句だけ言う。という感覚ではなくて、アイディア、企画出しですよ。大事な事は。発表する場はいくらでもあるでしょ。これだけいろんな意見が公になるネット社会では。文句や陰口ばかりのために使わないでそういう利用のしかたでいきましょうよ。

オリンピック招致に腹を立てて文句を言う人は、オリンピック自体に文句を言っている訳ではなく、政治業界人化した視野の狭い、想像力と決断力の無い政治家と仕組みに腹を立てているんだ、ということをはっきり分けて考え、発言した方がいいと思うのです。オリンピックは何も悪くないもん。いまの政治には高い所場代をとられているので、それだけ文句言われても文句言えないくらいにセンスの悪さがあると思うのです。残念ながら。

オリンピックは未来のための変化を実現するいい機会だと思うのです。オリンピックの後で、「オリンピックをやってよかったねー。」「あの時が転機だねー。」ってことにしなきゃいけない。1964年のオリンピックはそうだったんでしょう。それをやれないと僕らの世代は近いうちに平家の終わりみたいな終わり方をするんでしょう。

そういう意味で「なんでもあるけど希望だけが無い国」に希望が生まれたんだと信じたいです。東京オリンピックには。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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