自分の国の感覚のズレ

Vol.183
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

 

僕の知り合いに、親がどこかの会社の中国支社の駐在員だった関係で

子供の頃を中国の北京で過ごした人がいる。

 

その人の話

小さい時から中国で暮らしていても、学校はインターナショナルスクールで英語で勉強。

家庭では両親は日本語しか使わない。

だけど、その人は日常的に中国語に囲まれて暮らしているし、中国人の友達もできた。

中国語を勉強しないといけないと思って、一生懸命中国語を学んだそうです。

だから自然に日本語、英語、中国語のトリリンガルになった。

 

その後、中学生の時に父親が東京勤務になり日本に戻ることになった。

東京の中学校に転校した初日、クラスで先生からクラスメイトに紹介されて

お決まりのように黒板の前で自己紹介をして色々質問を受けることになった。

 

その中に「中国から来たなら中国語は喋れますか?」という質問があって

「喋れます」と答えたら、じゃあ中国語で何か喋ってみて。ということになった。

だから何のためらいもなく自分の自己紹介を中国語で披露した。

一通り喋り終わると、クラス中が大爆笑して先生も笑っていた。

なんで笑われるのかさっぱりわからなかった。

日本の学校というのが初めてで、奇妙な集団に見えた。

 

頑張って覚えた中国語を話せというから話した。話せるのに笑われた。

何をさせたかったんだろう?と悲しくなった。

多分中国語の響きが面白かったんだろう。でも中国語は中国語だ。

それからつけられたあだ名は「中国人」だった。中国人中国人とからかわれた。

 

日本って何故かそんな感じよね。いやーな感じよね。と思った。

 

 

コロナでみんなが疲弊している時にロシアが戦争を始めた。

国内でもパンデミックについても戦争についてもいろんな論調があるが

なにか腑に落ちる話は出てこない。気の利いた対応もない。

 

国とか国境とか、もうナンセンスなんだろうという気分でもあったけれど

ロシアが戦車で隣国に攻め込む映像をみていて、まだこんな社会なんだなあと思う。

国という単位が軍事力で利益を求めるような時代にプーチンに引き戻されてしまった。

これからこういう無駄な戦争が増えていくかもしれない。他人事ではないな。

 

国という単位で考えると、そんな世の中でも

日本人の感覚は国際感覚からかなりずれてきているのだろう。

例えば

コロナで海外ロケのチャンスは減っちゃったけど、行くとなったらいくらかかりますか?

みたいな質問は常にある。それで見積もりを書くために滞在費を調べたりすると

アメリカでホテルの値段が一泊500ドル。みたいな事が当たり前になっていて驚く。

日本の地方ロケでは1万円を超えるホテルの方が珍しいのに。

これが失われた30年か。と感じる。世界の経済は着実に伸びているんだ。

500ドル?マジで?と思う。そんな瑣末なことでもいちいち驚く。

 

それぞれ人によるけれど、僕の中には愛国心みたいのはあまりない。

日本人というアイデンティティはあるけど

日本は特別で神の国だというような根拠のない変な愛情は、国に対してはない。

当然ロシアが攻めてきたら戦わないだろう。喧嘩とは訳が違う。

 

アメリカに住んだ時に日本はいい国だなあと思った。

サッカーや野球、オリンピックなどで日本人が活躍すると嬉しい。その程度だ。

そんな感じなのに、周りの国の現状をニュースなどで見るにつけて、日本って国力が

下がってるよなあとしみじみ感じる事がある。ホテルの値段は如実にそれを表している。

 

国力は愛国心と国際性のバランスがとれて、意欲と共に伸びていくものだと思うけど

今の日本には両方が欠如しているんだなと思う。

中国や韓国はまるで違うように見える。そしてとっくに追い抜かれた。

 

1980年代以降、大国との差をアイディアや新しい技術などで縮めることのできる

小国が増え始めたそうだ。途中、資源の豊富な国がやっぱり有利という時代もありつつ

インターネットの出現や経済のルール、自然、再生可能エネルギーの活用などで、

技術や資源、市場の規模などで他の国を圧倒するような要因はなくなってきたそうだ。

だから、「接戦の時代」と言われている。

 

どの国も苦しく、どの国もチャンスがある。その国の課題をちゃんと見つけ出して

改革していけるかどうかが明暗を分けているらしいですね。

 

国際関係の本などを読んでいると、

「昔、日本は研究熱心で勇猛果敢なファイターだったが今は違う。慎重なだけで意欲に乏しい」

と書いてあった。自分の事かと思った。

「日本企業に長所は多いが、他国との比較でものを見るという文化がなく

 国内の尺度に囚われて外に関心が向いていない事が制約になっている。

 自分の欠点を自覚し世界をよく見るべきで、世界の動向やルールをよく知らないまま

 ゲームに参加しても勝つのは難しい」

 

中東の社会から見ると、日本人は

「世界のダイナミズムから距離を置き、小さな支流で清く正しく生きる奇異な人たち」

に見えている。とも書いてあった。ウヒャー。そうかも。

 

もう、僕なんかが何を言ってもどうにもならないのはわかってるんですけどね。

 

みんな歳をとって、若い人が少ないこともあるかもしれない。

ある時から自信を喪失した引きこもりのような民族になってないか?と思う。

精神的な鎖国。

 

それなのに、まだ、日本はアジアの中では特別で、世界との関係性やアジア各国との競争を

超越した存在なのよね。と思い込んでいる節は確実にある。クールジャパンよね。

 

裸の王様は裸です。という事実をちゃんと研究して知らなければ勘違いは治らない。

プライドの高い引きこもりが、時間が経って気が付いたら違う世界になっていた。

みたいになりたくないのです。

子供に希望が持てない国を手渡すのは罪だ。

 

ロシアがなんで戦争なんかおっ始めたのか、ちゃんと知ってる日本人はいなかった。

 

中国語を披露した帰国子女の転校生が、意味もわからずクラス中の笑いものになる。

中国語を話すことの価値すら分からず、中学生が音の響きだけで転校生をバカにする?

 

人と変わっているとそれがなんであろうとまず笑い飛ばしてバカにする。

物をよく知らないのに、知らないバカが集まるとどうしていいのか分からないから

立場的に偉い人間には何度もうなづき、立場の弱い人の特技は

嫉妬も含めてみんなで寄ってたかって価値のないものにしたがる。

この国はそういうくそ意地の悪いところは昔から全然変わらない。

気持ち悪い特徴があるんだ。

 

そのクラスの雰囲気の嫌な感じは、そもそも日本人の感覚に当てはまる嫌な感じだと思う。

 

水鳥の羽音を敵の襲来だと思って逃げ出す平家の2代目のようになってはいないだろうか?

関東の武士たちを田舎者と笑ってるあいだに滅ぼされたりしちゃうんだろうか?

諸行無常の響きあり。か?

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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