「人はなぜ落語を聴くのだろう」

第77話
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

僕の大好きな漫才師金属バットのネタに落語(家)を扱ったものがあって、その中のセリフに「落語家はお客さんの前にいきなり座って、大昔に誰かがやったネタをやっている」というのがあります。確かにその通り。ついつい笑ってしまいます。

僕が落語好き(もちろん「やる」ではなく「見る」「聴く」)になってから約18年。いっぱしのことを言うにはまだ早いですが、古典落語(落語家の8割以上は古典派)の場合、寄席にしてもお目当ての師匠の独演会や人気者達集合でのホール落語にしても、演目は知っているものばかりです。前座噺の「子ほめ」「牛ほめ」「転失気」などはいずれも軽く100回以上は聴いています(おそらく話そうと思えば話せます)。前座噺だけではありません。トリの師匠の大ネタもよほどの珍品でなければ何回も何十回も聴いたことがあります。
でも、どんなに内容もオチも知っていてもそれでもなお落語は面白いのです。なぜなのでしょう。

映画や芝居やドラマもリバイバルや再演や再放送で何度も見て楽しめますが、落語のそれとはまるで違います。落語の面白さは極論すれば落語そのものではなく落語家の面白さです。今、日本にはプロの落語家が東西(東京・大阪)合わせて800人以上いるそうです。そのみんなが同じ噺をいかに面白く話すかで実力と人気を競う世界。これはエグイです。身近なことに置き換えてみます。夜、子どもが寝るときに日本中の親の中で誰が一番「桃太郎」を面白く語れるかグランプリで優勝するのは至難の業。人気の落語家って凄いのです!そうです、僕もですが多くの落語ファンは面白い落語家を見に行くのです。何度も足を運ぶと落語家の好不調や体の具合、取り組む姿勢や成長がわかり、まれに化ける瞬間を目撃することもあります。そんな人間ドラマが味わえるので僕はまた落語を聴きに行くのです。

もう一つ。古典ではなく新作落語の場合。
その多くは自作自演です。これって、僕の本業のコピーライターやCMプランナーの仕事と似ています。新作の落語家は自分でアイデア(噺)を考え、それをお客さんの前で演じます。結果はお客さんの反応(ウケるか、スベるか)ですぐにわかります。ウケれば人気が上がり出番が増えたり次に繋がります。僕たちの仕事の場合、たとえばCMの競合プレゼン。自分でアイデア(CMコンテやコピー)を考え、それをお客さん(クライアント)の前でプレゼンします。結果はお客さんの判断ですぐに出ます。勝てば評判は上がり、また新しいプレゼンに呼んでもらえます。負けると呼ばれなくなります。う~ん、よく似てますよね!脅威なのは優秀な落語家やお笑い関係の人がこれに気付いてプレゼンに名乗りをあげることです。ただしプレゼンの場合、どんなにウケても負けたりするから困ったものです。

せっかくなので(何がせっかくなのかはさておき)、2022年1月段階での僕の「落語家神セブン」はこの7人です。全員メチャいいので、ぜひ聴いてみてください!

①柳家喬太郎
落語界のスーパースター。古典も新作もどちらにもファンが多い二刀流。この師匠と同じ時代を過ごせることは幸せだな、と思わせてくれる絶対的な落語家です。

②三遊亭白鳥
昭和の新作落語の雄と言われ昨年逝去された三遊亭圓丈師の弟子で今や新作落語のトップランナー。発想の逞しさと演者としての才能は図抜けています。僕はこの人こそが三遊亭圓朝を継ぐべきだと思うし、それがムリなら三遊亭圓鳥となるといいなぁ、と思います。

③瀧川鯉昇
鯉昇師匠の落語は出囃子が鳴って姿が見えた途端に始まります。枕からキチッと決められたスタイルですがその内容はオリジナルで他の人が真似できない唯一の芸なところが好きです。また、近頃テレビにもよく呼ばれる元暴走族総長の鯉斗師匠や、成金(落語家ユニット)出身で新作派の異才・鯉八師匠など個性溢れるお弟子さんたちが10人以上いるのもこの師匠の懐の深いところです。

④立川こしら
元々僕は家元(立川談志)を追っかけるところから落語ファンをスタートしたので、立川流の人たちはつい応援したくなります。もちろん超人気の志の輔・談春・志らく・談笑各師匠や同郷で学校も同じ生志師匠も大好きですが、今の世の中の流れと違うところで面白い試みをしている立川こしらという人から目が離せません。長年の住所不定生活から最近は対馬に住所をこしらえたようです(あ、なんかダジャレみたいでイヤだな苦笑)。

⑤三遊亭萬橘
五代目円楽一門会で勢いがある筆頭は萬橘師匠だと思います。この数年で兼好師との距離を詰めてすっかり二枚看板になってきました。安心して笑うことができる落語家です。

⑥蜃気楼龍玉
この師匠の人殺しの噺は絶品です。夏の暑い夜などに聴くことをオススメします。

⑦柳家三三
伝統の柳家の粒揃いのメンバーの中でも切札的存在はやはり三三師匠だと思います。いつの日か11代目の小三治襲名があることを信じています。あ~、僕が生きている間にどうか間に合いますように。
もちろん他にも、さん喬・雲助・権太楼・一朝・扇遊・文蔵・扇辰師らの大御所や白酒・一之輔・馬るこ師らの人気者、小痴楽・宮治・A太郎師らの成金組、文珍・南光・たま・二葉をはじめとした上方勢、等々もうキリがありません。そしてこれだけたっぷり落語のことを書いてしまうと、さすがに今日は仕事はおしまい。このあと寄席に行って笑って過ごすしかなさそうです。

ところで、冒頭の金属バットは今年のM1グランプリできっと大爆発すると思う話はまたの機会に。

プロフィール
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
門田 陽
電通第5CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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