判断力と決断力

番長プロデューサーの世直しコラムVol.6
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

テレビでサッカー日本代表監督/オシムの話を聞くと、なるほどと思うことが多いですね。今の僕らに足りない大事なことを言っている。それをサッカーで具現化しようとしている。そう思いました。

ワンタッチサッカーのことです。 極力、個人がボールを持つ時間を短くして、小さいパスとサイドチェンジでスペースを広げ、攻撃側がシュートしやすい状態を作り出す。全員考えながら走る。

これまでの日本代表監督。「組織的ディフェンス」のトルシエは、日本人が忘れかけた規律を教えようとしましたね。日本人には規律が必要だと。大きなお世話だよ。今、そこから先に行けなくて困ってるんだよ。 次は、そのアンチとして「自由な個人技」のジーコ。好きにやりなさい系。サッカーの神様ジーコの言うようなことは、ある種理想ではありますが肉体的に無理があって、というか、王貞治に「なんで打てないんだ?あんな球」と言われているようで、やっぱりできませんよ、そんなこと。俺はあなたじゃないからさって。で、あっさり負けちゃいましたね。 だから、どっちもなんとなくピンとこなかった。だけどオシムにはなんか期待できるような気がします。たぶん、選手全員に個人の判断力や決断力を要求して、チームで戦う戦術だからだと思うんです。

オシムのサッカーに対する要求を満たそうとすると、選手個人個人が相当な判断と決断を繰り返さなければならないでしょう。ボールを持った時の状況判断、味方との連携、戦局の動かし方。ある一部のスター選手だけがやっちゃうのではなく、参加している全員が状況を判断してボールを扱う。ボールを持ってから考えるのではなく、戦局を見て直前までいろんなことを考えながら、自分にボールが来た意味を理解しつつワンタッチでシュートをするかボールをまわすか判断する。

それには、思いつきではなくてアイディアが求められる。サッカーに限らず、いろんな仕事でも、実はそういうことが求められていると思うんです。 個人個人が自分のポジションで判断して仕事をする。決断して進む。社会のビジネスのスピードってかなり速くなっている。スピードということがかなりの重要ファクターになってきている。そこに対応していかないと、一人一人が上場している企業のような僕らは市場での競争力を失い、そう見なされた人は退場を命じられるでしょう。

現場での個人の判断が、重要になってくると思うんです。現場では何故かいつも困ったことが起こる。予想外のことが必ず起こる。それに直面した時、自分のアイディアを駆使して、会社や上司に判断を仰がないでスマートにその場で処理する。ワンタッチで優勢に持ち込む。そんな人材だけが、生き残っていけると思うんです。

判断や決断はことが起こってからするものではありません。周到に準備された上で、実際に起きた事柄に対して、すぐさまいくつかの対処パターンを並べ、その中で最良の策を選択し、周りの人を唸らせるようなロジックで説得する。そして、すぐに対処する。

事前に相手の情報を収集し、分析する。自分の技術と照らし合わせて自分に足りないこと、足りていることを割り出しておく。足りない部分を日々の練習で補う努力をする。「走れ走れ、考えながら走れ」とオシムは言います。どういうことが起こるのか、いろんな想像を巡らしておく。起こってほしくないことが起きた時に、一番大切なことを決めておいて、それを守る手段、順番、方法を決めておく。答えは一つではないので柔軟な対応策をいくつか持つ。逆にチャンスの時はうろたえずに冷静にモノにする。予想しておけばできる。

実際に現場では、いろんなことが起こる。毎度、「どうしましょう?」って言われても困っちゃう。「上司に聞いてみます」、その挙げ句の果てには「前例がありませんので」なんて、「プロジェクトX見てなかったのかよお前」と思う。お前は死んでもあの番組には出られないな。そもそも、決断力がないと女にもてないよ。まじで。

自分の責任の範疇で決断しない奴、立ち向かわない奴、放棄する奴、逃げる奴。やったことがないとか、自信がないとか、試合に出たくないとか言う奴。お前、給料もらってるんだろ。プロの選手じゃねえのかよ?イマジネーションが足りねえよ。学校にいる時のまんまかよ。 ボールを持つと、その都度ベンチを見るような選手じゃだめだよ。なんでもいいから中村俊輔にパスしようとする奴もスターにはなれないでしょ。

サッカーやバスケットのような攻守入り乱れて行われるスポーツの基本には、ボールを持った選手は、どのポジションだろうと、まず最初にしなきゃいけないことがあります。それは「自分でシュートを狙う」です。ディフェンスはシュートをされるのが一番嫌です。全員どこからでもシュートを狙ってくる危険性のあるチームっていうのが相手からすると一番怖い。これからはフィニッシャーになろうという気持ちが大切だと思うんです。俺はフィニッシャーでありたい。なんでもいいけどフィニッシャーはかっこいい。

会社での普通の会話に、「それは自分では決められません」という発言が多すぎますね。「僕にシュートする権利はありません」みたいな発言。若い奴だけじゃない。いい歳のおやじもよくそういうことを言う。そんなに大したことでもないようなことでも、責任取りたくないのか、なんか上から言われるのが嫌なのか。臆病。怠慢。準備不足だと思うんです。うろたえる。それでいろんなことが後手後手に回って結局いい結果にならないことが多い。 そもそも決断することは、大きく言うと「やる」か「やらない」かの2つしかないんですよね。どっちかっていうとこっちのほうがいいじゃんか。という決断。にたっと笑って「俺が決めてやるぜ」って言う人間しか偉くならない。

オシムのサッカーが、なぜ期待できるような気がするのか? オシムは「充分な準備をして、考えて走って、で、自分で決断するプレイをしなさい」と言っているような気がするんですね。大人になりなさいよ。イマジネーションと行動力と判断力と決断力を持ってフィニッシャーになりなさいよ、日本人。失敗をしないということを盾にとって勝負をしないことを正当化するんじゃないよ。と言っている。きっと。日本人のメンタルに、そういったことが一番足りないと思ったのでしょう。

流行のオシム語録を一つ。 「一生懸命探すニワトリだけが餌にありつける」

良いこと言う。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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