映画とCMの違い

Vol.180
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

昔、映画の様なCMがテレビにたくさん流れていました。

映画の様なというよりか、映画のワンシーンの様なCMですね。

僕はそう言うコマーシャルが大好きでした。

 

30秒か15秒なので、ストーリーはある様でないのがテレビCMです。

 

そんなCMの世界もインターネットを使うのが当たり前になって、商品やブランドのための、ストーリーのある、長さにとらわれない動画を制

作する機会も増えてきました。

インターネットが主戦場の動画広告ビジネスは、売り上げ高でいうと、

ここ数年でテレビCMの扱いを追い抜いてしまったそうです。

 

それはさておき。

 

僕がテレビCMに憧れてこの世界に入った時は

まだずいぶんCMに映画っぽい匂いが残っていましたが、

今は、もう全くと言っていいほどそう言う仕事はありません。

それがなんなのかはハッキリ言いにくいのですが、

商品を気分で表す。的な事をやれなくなった。ということかもしれません。

 

90年代にウイスキーのCMに「恋は遠い日の花火ではない」と言うコピーで、中年の恋愛を

テーマに描いた超名作がありますが、こういう気分で商品の良さを伝えようとするCMは

ほぼ見なくなりました。

 

30年この仕事をしていて、時代の変遷の真っ只中でやってきましたが、テレビコマーシャルの役割は確実に変わっているのを感じます。

 

なんで変わっていったかは語り尽くされているし、語ると寂しいからここでは書きませんが、平たく言うと、何十億円もかけてやるテレビCM

のキャンペーンは気分で描かれて失敗されたら嫌だ

よね。と言うことだと思います。

 

その昔あった、気分で商品を表したCMで、成功した例の裏には、

話題にもならずに失敗したCMの死体の山がゴロゴロ転がっているのも事実なんでしょう。

 

企画する現場でも、気分だけでは説明がつかず、調査やマーケティング、

数値から効果を割り出す手法に切り替わっていったんだと思います。

エビデンスが必要になった。気分で表された物には好きな人も嫌いな人もいるものです。

内情はもっと複雑ですが。

 

映画の業界のことはそんなに詳しくは知りませんが

聞く話によると、映画を制作するときに立ち上がる、製作委員会という

組織が、やはり勝手なことや冒険をなかなか許してくれないそうです。

だから、あらかじめヒットした小説やマンガの原作がモチーフになったものや

人気のアイドルタレントを起用するものが、リスクヘッジ的に多くなる。とも聞きます。

 

そんな中、数年前からある宝飾品ブランドの仕事を任されることになり

トップの方とも直接お会いして話をする機会をいただいたので、

思い切って有名な映画の監督を演出家として招聘してコマーシャルを作ることに

なりました。

 

「映画みたいなCMを最近見ることがなくなりましたね」

 

どういうCMを作りましょうか?とその企業のトップと話をしているときに

そういう話が出たからです。

そのブランドにまつわるストーリーを作って、インターネットでは

ショートムービーを流す。そこから切り出した30秒と15秒のCMを作り

テレビでオンエアする。

 

そのくらいのことはどこでもやっているありきたりのものですが

この仕事は、結果的に五年かけて3本のストーリーを、続きものとして

制作する。ということになっていきました。

つまり、同じ配役の男女の主人公で、男がプロポーズするエピソード1から始まって

次の回は時間を遡って2人の出会った直後を描くエピソード0、

最後に今回、結婚した後、うまくいかない結婚生活に、

あるきっかけで再びその大切さを気付かされるエピソード2。

という風に展開していくサーガ風のものです。

 

こういうことをやらせてもらえることに感謝しながら、いろんな難局を抜けて

時間をかけて、できたものを世に出していきました。

結果は、メチャクチャ話題になってヒットした訳ではありませんが、

インターネットのそのショートムービーの視聴数はじわじわと増えて

そのブランドの認知も売り上げもじわじわと伸びていったと聞いています。

 

そんな作品を作っている途中、「映画とCMの違いってなんなんでしょう?」

という質問を広告主にされて少し返答に困りました。

「どうやったら映画っぽくなるんですか?テレビコマーシャルは」と。

 

広告がらみのインターネットムービーの制作は経験がありますが

ガチの映画はやった経験はありません。だからハッキリわからないのです。

想像はつきますが、多分その想像を超えたところに映画制作の難しさは

あるのでしょう。

 

最近はCMで優秀だと言われているCMの演出家が映画の演出を手がける

ことも多くなってきました。そしてちゃんと面白い映画を作り、CMの時よりも

伸び伸びと仕事している印象があります。直接見たわけじゃないのでなんとも言えませんが。

コンプライアンスとかいって制約や規制の多くなったテレビCMの仕事よりも

映画の演出の方が、苦労が多くてもやりがいを感じるのかも知れません。残念ですが。

 

その逆を行って、本物の映画監督と広告の動画とテレビCMを作る。

実は結構前からその監督には広告の映像を依頼して、過去何作品か仕上げてもらっていました。

 

映画の監督は、やはり考えていることが新鮮で、ストーリーの展開について

アイディアがちゃんと長いストーリーとなってポンポン出てきます。

よくそんなこと、色々思いつきますね。って感じで。

仕事をご一緒するたびに新鮮な気持ちになります。

 

今回作業していく中で、その監督が言ったことに愕きました。

「映画とCMの大きな違いがわかりましたよ」

と。

へ?なんですかそれ?この間、クライアントに聞かれて答えられなかったんですよね。

 

「1番の違いは、CMはその秒数や性質上、セリフを言っている人を撮影しなければ

 いけないということです。わかります?

 CMのコンテには必ずセリフを言う人の画が書いてありますよね。

 映画は違います。映画はセリフを聞いている人をじっくり狙う。

 セリフを言っている人にはあまり感情の変化は表情に出ないものですが、

 聞いている側は、その相手の言い分を聞きながら感情が変化していく。

 その感情の変化していく様を撮影するのが物語の展開なんですよ。

 そういうことって30秒や15秒ではできないんだなあと今回も感じました。

 みんながみんなそれに当てはまるわけじゃないですけどね

 CMの監督が撮る映画ってセリフを言う側を撮ってることが多い。

 カット割が早くてうまいんですけどね」

 

と言いました。

あー、そうかもしれない。そうですね。それ次のコラムに書いていいですか?

と言ってしまいました。

そう言う観点なかったなあ。確かにそうだなあと。

昔あった映画っぽいCMはそう言うところをわかって作られていたのかもしれないなあ。

人の感情の変化を描くことができる間合い。それを取り入れてCMを完成さすのは

至難の技だなあと。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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