人脈があるとかないとか

Vol.173
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

「あなたは人脈があるからいいですねえ。」

とたまに言われてイラっとくることがあります。

 

そりゃあ30年もCM作ってると、この仕事に関しては知り合いも多いですが、人脈ってニュアンスとはちょっとちがうんですよね。

 

そもそも人脈という言葉が好きじゃないのと「人脈がある」という意味を間違えている人が多いような気がするからです。

 

一般的な「人脈」には、常に自分に都合がいいというニュアンスが含まれていて、

平たくいうと「自分が困った時に助けてくれる人」という意味に取られてると思います。

そこに違和感がある。

 

また、その世界で長くやればやるほど人脈は太くなる。ベテランには人脈がある。と思われることも多いけど、それも少し違うと思うんです。

ある年齢を過ぎると、若いころ一緒に頑張って来た仲間が引退し始める。

結局、頑張れるころに持っていたいろんな友人たちがいなくなっちゃったり。

付き合いのあった会社がなくなったり。

 

だいたい考えてみたら分かる。

 

本当に困った時に、人脈を使って困難を乗り切ろうとおもって人をあてにしていたら、あてにされた人も迷惑である。

自分でなんとかするしかないし、その意思のない人を助ける気には誰もならないだろうな。

 

どこかのパーティで出会って、出身高校が一緒で仲良くなったおじいちゃんの肩書きがものすごくて

「困ったことがあったらいつでも言って来なさい」

って言ってくれたから、困った時に電話したら電話にも出てくれなかったことがある。

そんなもんだ。

 

人脈なんてそもそも存在するんだろうか?

存在するとしたら、「本当に困った時に頼りになる人」ではなくて、

逆に「本当に困ったとき自分を頼ってくる人」を言うんじゃないかと思うのです。

 

ん?どういうこと?

 

つまり、関係性の問題が大きいのだけど

困っている時に、真っ先に自分を頼ってくれる人」を思い受けべてみればわかる。

そう何人も思いつかないだろう。

お互いに大事なところで助け合った記憶がないと、そう簡単に人は自分を頼ってこないだろうし、助けてあげようとも思えない。

 

本当に困った、信頼関係のある人が自分を頼って来た時に、どういう対処をしたか?

自分のできることは全部やってあげて、何かの解決になった。感謝された。

結果はどうあれ、そういうところに人脈があるのではないだろうか?

「人脈」という言葉は本来「信頼」に近いと思う。

 

人脈という概念がこれほど軽くなった時代もない昨今。

SNSのせいだけど。

 

人の人脈なんて目には見えないものだったのが今はSNS上で可視化されているからだ。

簡単にその人に関係ない人にも見えちゃってそのサークルの中にSNS上で入り込もうと思ったら、

結構簡単に受け入れられたりするけど、そういう人が勘違いするケースも多い。

気持ちはわからなくもないけど、人脈じゃなくて友人関係なのだから。

 

自分を大きく他人に見せるための勘違い人脈がSNSを中心に横行しているのは事実だ。

 

だから、人脈という言葉があまり価値がなくなってきた。

「この人とつながっておけば役に立つ」「この人とつながっていれば金が儲かる」

そういうことを人脈だと思い込む傾向が強いので人脈が下品に見えて来ている。

 

そもそも若者たちに縦の関係の人脈を欲しがっているとも思えない。

逆に、SNSで勝手に発表していた写真が、たまたま出版社の編集者の目に止まり

いきなり有名な小説家の新刊の表紙になったカメラマンを知っている。

そういうチャンスが平等に出始めたのも社会の変化としては事実です。

 

人脈に頼ったわけでもないのに世界中からいきなりオファーが来ることも珍しくなくなってくる。

 

「人脈」を辞書で引くといろいろ書いてあるが「知己的な関係」という書き方を見つけた。

知己(ちき)というのは“自分のことをよく理解してくれる人”という意味らしい。

 

人脈を広げると躍起になって、いろんなところに出向いて顔を売っても中身がなければ連絡ももらえないだろう。

 

そんなにわざわざ外に出て行かなくても、

自分のやっていることが面白くて、会ってみたい人って存在でいたら、

ほっといても人脈は広がるんじゃないかと思うのです。

つまり自分を磨く方が先。

自分の行動を発表する場所も多くなった。

 

 

そういう自分をわかってくれる人がいる。その人が困ったら死んでも助ける。

ということが

人脈という意味なんでしょう。軽く扱わないで欲しい。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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