えぇ!? ブレネリ 歌詞の謎

東京
コピーライター
TOKYOそういえば日記 24
コジマカツヒコ

みなさん、出身地はどこですか?

私は埼玉県です。ヤッホ~ ホトゥラララ~~!!

 

そうです、「おおブレネリ」の件です。

 

おおブレネリ あなたのおうちはどこ

わたしのおうちは スイッツァランドよ

きれいな湖水の ほとりなのよ

ヤッホ〜

 

出身地を訊かれただけなのに、奇声を上げて歌い踊り出すブレネリさん。

 

そういえば新宿駅の改札あたりで、偶然知り合いに会った女の人が

「やぁぁぁーーー♥」とピョンピョン跳ねている“歓迎の舞”はよく見ますけれど、

ブレネリさんはヤバい。正気の沙汰ではないです。目の前でやられたら

映画『シャイニング』のジャック・ニコルソン並みに怖い。腰を抜かす自信があります。

 

歌い出すのは冷静に考えるに民謡なのでいいんですけれど、まあ。

ともあれ頭の隅にずっと引っかかっている「おおブレネリ」について調べてみました。

 

 

ブレネリさん♀の名前

ブレネリとは、スイスによくある女性の名前「フレニ(Vreni)」の

愛称読み「フレネリ(Vreneli)」だそうです。日本だと幸子が「さっちゃん」に

なる感じですよね。

フとブは、英語読みの「V」が「ブ」に変化したのでしょうか(後で書きます)。

歌詞の中に「なのよ」と出てくるので、ブレネリさんはスイスの女性です。

 

 

日本語版の歌詞 1番と2番(ブレネリさんのプロフ)

(歌詞引用「おおブレネリ」 スイス民謡   [訳詞]松田 稔   [追訳詞]東大音感合唱研究会)

 

1.

おおブレネリ あなたのおうちはどこ

わたしのおうちは スイッツァランドよ

きれいな湖水の ほとりなのよ

ヤッホ ホトゥラララ(5回繰り返し)

ヤッホ ホトゥラララ ヤッホホ

 

2.

おおブレネリ あなたの仕事はなに

わたしの仕事は 羊飼いよ

おおかみ出るので こわいのよ

ヤッホ ホトゥラララ(5回繰り返し)

ヤッホ ホトゥラララ ヤッホホ

 

ブレネリさんの故郷はスイッツァランド、つまりスイス。

町の名前までは出てきませんが、ご実家は湖畔にあることがうかがえます。

 

出身地を訊かれて「国名」で答えるということは、ブレネリさんは

スイスを出てどこかよその国にいるという設定。

感極まってヤッホ~と高揚してしまったのはトラベラーズハイでしょうか、

あるいはよほど故郷スイスへの愛が強いのでしょうか。

 

職業は羊飼い。収入はどうなんでしょう。

近年のスイスは収入が世界一高い国。2018年の日経の記事によると

月収平均52万円、平均年収が620万円。いいなすごいな。

ただ「おおブレネリ」は古くから伝わる(とされている)民謡なので

ブレネリさんの実家がリッチピープルかどうかは不明です。

「アルプスの少女ハイジ」に出てくるペーターの家は裕福ではなかったですしね。

よその国へ行けるという点でペーターの家よりお金はあったかもしれません。

 

と、ここまでが歌詞の1番と2番。まずまず平和な内容です。

が、このあとブレネリさんを巡る状況は急激にシリアスさを帯びてきます。

 

 

日本語版の歌詞 3番と4番(ブレネリさん緊急事態編)

(歌詞引用「おおブレネリ」 スイス民謡   [訳詞]松田 稔   [追訳詞]東大音感合唱研究会)

 

調べてみるまで3番と4番の歌詞は知りませんでした。

 

3.

おおブレネリ 私の腕をごらん

明るいスイスを 作るため

オオカミ必ず 追い払う

ヤッホ ホトゥラララ(5回繰り返し)

ヤッホ ホトゥラララ ヤッホホ

 

4.

おおブレネリ ごらんよ スイッツランドを

自由を求めて 立ち上がる

ヤッホ ホトゥラララ(5回繰り返し)

ヤッホ ホトゥラララ ヤッホホ

 

なにがあったんだブレネリさん!?

 

特に3番が気になりませんか。

「私の腕をごらん」「明るいスイスを 作るため  オオカミ必ず 追い払う」

 

一転して、祖国の危機のようなきな臭い雰囲気になってきました。

 

オオカミは、これは動物のオオカミでは無さそうですね。暗喩か。

羊飼いの羊も動物ではなくて、スイスの国民を指しているのでしょうか。

スイス国民をひどい目に合わせたオオカミといえばナチスドイツが浮かびます。

古い民謡だとするともっと遡って13世紀の独立以前に現在のスイス一帯を

支配していたハプスブルク家がオオカミかもしれません。

 

「私の腕をごらん」も気になります。腕前?  スキル? ということは

ブレネリさんはもしかするとスイスの特殊工作員、つまり女スパイだとする説。

あるいは国外追放された強い影響力を持つ女性リーダーなのではないか?

などの解釈を生んでいます。

 

 

誰が作った歌詞なのか

これがまた謎が謎を呼ぶ展開に。前出の「ナチス」も「女スパイ」もひっくり返ります。

 

日本で親しまれている「おおブレネリ」の歌詞は、元大阪YMCAの会長を務められていた

松田稔さんという方が1949年(昭和24年)に作詞(訳詞)されています。

ただ、松田さんが訳詞したのは1番のみ、あるいは1番と2番のみ、らしいです。

 

そして松田さんが訳した元の歌詞とされているのは、スイスのものではなくアメリカ版。

 

ネットを掘ってみると、スイスの元々の歌が第1次世界大戦後に兵士や学生に広がり、

その一部がアメリカに伝えられ、アメリカYMCAの歌集「楽しい歌」に英語に訳されて収録。

その歌詞を大阪YMCAにいらっしゃった松田稔さんが日本語に翻訳、というルートらしいです。

冒頭の「フレネリ」の「フ」→「ブ」と英語読みになっているのも納得がいきます。

 

英語版の歌詞(訳詞)をごらんください。

 

1.

おおブレネリ(フレネリ)可愛い娘 君の家はどこ?

「私の家はスイスにあるの。木と石で出来ているのよ」

2.

おおブレネリ 可愛い娘 君の心(感情)はどこ?

「ああそれは」彼女は言った

「あげちゃったわ。でもまたうずくの」

3.

おおブレネリ 可愛い娘 君の頭(知性)はどこ?

「それもあげちゃったわ。心(感情)と一緒にね。」

 

 

こっちはこっちでシュールな歌詞ですね。

というのも原詩はドイツ語(スイスの公用語のひとつ)で、そちらは

「少女が兵隊に身を捧げるような好ましくない内容」を含むため、英語版は

そこのディテールをボカした歌詞に変更されたらしいです。

なるほど、そういう視点で見ると悲しいものを感じます。

 

あと、湖水とか、羊とかオオカミとか、スイスを救うとか、どこ行った?

 

英語版と日本語版を比べてみましょう。1番は日本版の歌詞と根っこはおおすじ同じ。

対して2番と3番はまったく異なります。4番は英語版には存在しないそうです。

特に日本語版のミステリアスな3番と4番は「東大音感合唱研究会」という

サークルが「追訳詞」したとのこと。

 

追訳詞というわりに、我々が知っている「おおブレネリ」は

そのほとんどが日本オリジナルの歌詞なのでした。どうしてなのか。

特に、3番と4番の「祖国の危機に立ち上がるブレネリさん」は何故描かれたのか?

 

ここが難関。東大音感合唱研究会による直接のコメントは探し出せませんでした。

ただ、ひとつだけ、元編集者で文筆家・二木紘三氏のホームページ

二木紘三のうた物語』に興味深い考察が掲載されています。

 

かいつまんで記すと「おおブレネリ」が翻訳された昭和24年当時の日本は

連合国軍最高司令官総司令部GHQの統治下に置かれていた戦後間もない時代。

そんな中、民族独立や反戦、革命の主張などをメロディにのせて歌い上げる

「うたごえ運動」が街で盛り上がりを見せていたそうです。

松田さん訳による「おおブレネリ」は発表後すぐに歌のサークルや歌声喫茶で人気を呼びました。

この流れの中、本来とは異なる味付けをされた3番と4番が追加されたのではないか、と。

 

まとめます。

 

スイスの古い民謡と言われ、原詩はドイツ語で書かれており、その内容はちょっと

かわいそうなお話。第一次世界大戦後にやんわりとした表現で英語に訳され、

さらにそれを訳した日本語版は歌詞の1番こそ英語版をトレースしているものの、

中・後半は日本のオリジナルで、込められた思いはGHQからの日本民族独立かも?

 

なんだか頭がクラクラしますね。ほかにも様々な解釈があるのですけど…

アップデートが凄すぎるよブレネリさん!!

 

 

 

追伸

ちなみにスイスで「おおブレネリ」を知っている人は殆どいないらしく、

歌うと「 は? 」って顔をされるそうです。スイス旅行の際はお気をつけください。

 

*歌詞引用「おおブレネリ」 スイス民謡   [訳詞]松田 稔   [追訳詞]東大音感合唱研究会 より

*著作権保護の観点より、歌詞の印刷行為は禁止されています。

 

参考サイト

世界の民謡・童謡

チューリヒ、そして広島

二木紘三のうた物語

 

 

プロフィール
コピーライター
コジマカツヒコ
30数年前、マスコミ電話帳を片手に「使ってくれませんか?」の電話勧誘を繰り返し「ゆ」のページに書かれていた制作会社に潜入。流通やメーカーのハウスエージェンシー、広告代理店を経て独立。得意領域は流通小売・メーカーの広告や販促ツールいろいろ。趣味は水泳と愛猫の育成、お酒と無駄話。お仕事のご依頼は kojimakatsu@icloud.com までメールくださいませ。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP