北海道の「富山式雑煮」は進化系?

北海道
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

出身地の伝統を生かした雑煮
富山系道民の雑煮は「焼きカレイ入り」

 

前回の記事で、北海道の雑煮を紹介させていただいた。
現在の北海道の住民は、大半が明治以降の移住者の子孫。
なので、移住前の「故郷」の雑煮の形態をそのまま受け継いでいる。

 徳島県出身なら白味噌に丸餅
岐阜県出身者なら澄まし汁、切り餅。具は豆腐、鶏肉、ホウレンソウ。食べる際に削りカツオをかける。

 そして富山県出身者ならば、澄まし汁、切り餅。ニンジン、ゴボウ、こんにゃく、焼き豆腐。焼いたカレイをほぐして入れる

 何故か富山県には存在しない?
焼きカレイ入り雑煮

 

「富山式雑煮」は、「焼いたカレイ」が持ち味。
「富山 雑煮 カレイ」でネット検索すれば「富山県出身者の子孫の道民によるブログ」がヒットする。
そう…肝心の「故郷であるところの富山県人」による情報はヒットしないのである。

カレイ」では。

 ここで富山県、」越中の国を改めてみよう。
日本海に面した「海あり県」
海から遡って、北アルプスの3千メートル級の山岳地帯へと至る。
なので産する物産はさまざま。そして正月の雑煮も様々。

 ここでおなじみの『日本の食生活全集 富山の食事』より、富山県各地の雑煮を改めてみよう。

 

画像はamazonから

・富山県西部・南砺市
昆布と鰹節の澄まし汁。茹でた切り餅、具はネギのみ

 ・越中五箇山・平村(現在の南砺市)
昆布出汁の味噌仕立て。茹でた切り餅、具はネギのみ

 ・日本海沿岸・氷見市
鰹出汁の澄まし汁。豆腐、油揚げ、ゴボウ、茹でた切り餅

 ・富山市近郊
イワシのすり身団子汁の出汁、醤油と砂糖で味付け。茹でた切り餅に油揚げ、豆腐、ニンジン

 ・富山県東部・魚津市
澄まし仕立て。茹でた切り餅にコンニャク、ゴボウ、ニンジン、焼き豆腐、ネギ
フクラギ(ブリの子供)、サバ、鯛などの焼き魚をほぐして入れる

 フクラギ、サバ、鯛を焼いてほぐして入れる…焼き魚の身をほぐして入れる。
まさに「北海道式富山雑煮」そのままのシステム。魚の種類は違うにしても。

富山県東部、魚津市から下新川郡にかけての地域が「素焼き魚入り雑煮」の故郷だろう。

 

ブリが獲れない北海道
だから代用品としてのカレイ入り

 北海道は冷帯気候。
温帯の「内地」とは水揚げされる魚も異なる。
大和民族にとっての高級魚がタイやヒラメ。だが網を入れてもタイもヒラメもブリも揚がりようがない。内地の高級魚は棲めない、冷たい北の海。
北海道の海岸で亀を助けて竜宮城に招かれれば、どんな魚に歓待されるのか。鮭かタラか、はたまたオオカミウオか。

 だからこそ内地のタイやブリを偲び、白身魚で保存にも優れるカレイの干物を代用に用いたのだろう。竹がないから、ヤナギに短冊を飾る北海道の七夕。正月の松飾はエゾマツにトドマツ。それと同様の工夫。

 

地球温暖化でブリが揚がる
それでも受け継がれるカレイ雑煮

 昨今では「地球温暖化」の恩恵?により、北海道でもフクラギやブリが揚がる。
だが北海道で「魚」といえばまず鮭、あるいは鱈に秋刀魚、そして氷下魚にホッケ。西日本、そして北陸では高級魚であるはずのブリはいささか持て余され、そのまま本州方面に送られていく。

 そして富山系の移住者の末裔も明治以来百数十年の歴史で定着した「カレイ入り雑煮」に馴染み、ブリへ宗旨替えなど思いもよらない。
今年もまたカレイを焼いてほぐし、新たな歴史を刻んでいく。

 

※参考文献

『日本の食生活全集① 聞き書 北海道の食事』農文協 1986年
『日本の食生活全集⑯ 聞き書  富山の食事』農文協 1989年

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。月に一度の割合で、アウトドアニュース『キャビネット』で記事を執筆中https://cabinet-online.jp/

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